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顔を見なくても誰かが分かる。
それだけ会いたくて会いたくてたまらなかった。
「祐羽」
「!!!」
ボロッと大粒の涙が溢れ落ちた。
九条さんだぁ…っ、
「九条さんっ!!!」
祐羽は体の向きを変えると、思い切りしがみつき大きな声で泣いた。
胸に顔を埋めてわんわんと泣き、力いっぱい顔をグリグリと擦り付ける。
「九条さんっ、九条さん…!怖かったよぉ…っ」
祐羽を九条は優しく抱き上げると、しっかりと抱き締め、その場から離れる様に歩き出す。
それから泣き止まない祐羽の頭を抱え「すまなかった」と耳元に囁いた。
既に懐かしくなった声に謝られ顔を上げると、鼻と鼻が着くほど側に九条の顔があった。
ヤクザをしている九条のせいでこんな目にあった。
そして早く助けに来てくれなかったことも詰ってしまいたかったが、九条の顔を見たら何も言えなかった。
九条さんも…僕と同じ?
加藤達にされた仕打ちはとても辛かったが、九条のいつもとは違う表情を見れば、責める言葉は何も出ない。
自分と同じ様に辛い時間を過ごし、ここへと助けに駆けつけてくれたことが十分に伝わった。
らしくなく乱れた髪と大粒の汗、そして抱き締める力が、どれほど自分を心配してくれていたかを教えてくれる。
普段表情の乏しい九条が、安堵の色を浮かべているその顔を見て、大好きだと思えても絶対嫌いになどなれない。
この大きく暖かな胸に抱かれて心底安心している自分が、九条を否定するなど出来はしない。
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