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九条に抱かれて安心しきった祐羽は身を任せる。
背後では白田達が騒がしく行き来しているが、もう加藤の顔は二度と見たくはないし、存在さえ忘れたい。
男の痛みと抵抗の入り混じった声が聞こえて怯える自分を九条が胸へとしっかり押し付けた。
あ…九条さんの。
九条の匂いに包まれ鼓動を聴けば、不思議と安堵が広がっていく。
この音だけに耳を預けておこうと、祐羽は加藤から意識を引き剥がした。
それから横付けされた車に乗せられかけた祐羽は、ここでハッとした。
「九条さんっ、あのっ、中瀬さんは?!それと外崎さんが捕まっていて…!!」
自分が助かったからと安心しきっていたが、連れて行かれた中瀬と、捕まっている外崎の安否が気になる。
腕の中で顔面蒼白になった祐羽に、九条が何かを伝えようと前方を顎で示した。
どういうことかと顔だけを向けると、別の車から中瀬と外崎が飛び出して来たところだった。
「あっ!!中瀬さんっ、外崎さん!!!」
九条が身を捩った祐羽をそっと下ろしてくれる。
足元が覚束無い祐羽の元へ外崎と中瀬が泣きながら駆け寄ってきた。
「祐羽!!」
「祐羽くんっ!!」
ふたり共目に涙をいっぱい浮かべて抱きついてきて、祐羽も泣きながら抱き返した。
潰されそうになりながら「良かった」を繰り返し溢した。
今は夏の暑さもさっきまでの辛さも無い。
嬉しいだけの気持ちが湧き続け、祐羽は改めて本当に助かったのだと、この大変な事件は終わったんだと喜んだ。
それから三人で泣き、笑いあった。
「おいお前ら。今はそれくらいにしとけや。後で幾らでも会わせてやるけぇ」
側で見守っていた紫藤が口調とは裏腹に優しく笑っていた。
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