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促されて「また後で」と別れた祐羽は、九条に抱き上げられ車に乗せられる。 いつもなら大丈夫だと自分で歩くところだが、やはり体も心もボロボロなのだろう。 もう今は何もしたくない。 九条が祐羽を抱いて車に乗ると、車が静かに走り出した。 あの恐ろしい建物が遠ざかっていくのが分かる。 何ヵ月も監禁された訳ではないのに、果てしなく長く感じたのは、それだけ怖かった証拠だろう。 その一番の原因である加藤が九条に倒されたことで打撲か何か怪我をしたのは分かったが、今どうなっているのか考えたくもない。 祐羽はきゅっと唇を噛むと、九条の胸元でゴソゴソと丸まった。 目を閉じて何も考えない様にして、記憶を消そうと頑張ってみるが、そんな事で加藤の顔は消えてくれない。 益々しがみついてくる祐羽に、九条が優しくこめかみにキスを落としてくれた。 人のいる車の中で何てことを…!と思わないでもないが、嬉しいのが勝る。 もう1回してほしいな…。 祐羽の心の声が聞こえた訳ではないだろうが、九条が繰り返しチュッチュとしてくれて何だか涙が出そうになってきた。 「九条さ…」 舌っ足らずで呼びながら顔を向けると、整った顔が自分をいつもの顔で見下ろしている。 「何だ?」 いつもなら言わないし、言えないが今はこれしか傷ついた心を治してくれる術がなかった。 「ちゅっ、てしてください」 そう言って唇を尖らせると、九条が優しくキスをしてくれる。 帰れてよかった…九条さんのところへ。 また会えて本当によかった。 祐羽は一気に安堵に包まれると、再び九条の懐に頬を預ける。 そして、抱き締めてくれる九条の逞しい腕の強さを感じながら、顔を見つめ続けたのだった。

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