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「あれ…僕」 汗のベタつきもなく体も綺麗サッパリなことや、転んで少し怪我をした箇所は車内で手当てを受けていたが、そこも新しい大きな絆創膏に貼り替えられていた。 これはきっと自分が寝ている間に、九条がしてくれたのだろう。 カーテンが引かれたままの部屋は暗い。 ほんのり照らされたベッドのデジタル時計を確認して漸く朝だと理解すると、次に隣に九条が居ないことに気づく。 「…九条さん?」 ここがホテルの寝室で安全な場所だと分かってはいるが、何故か凄く不安が募る。 すぐにベッドから抜け出すと、裸足のまま寝室を出る。 迷子の様に泣きそうになりながら続きの部屋に向かうが、そこに九条の姿は無く他も探すが居ない。 「あれっ、九条さん?どこですか?!」 ひと通り見て回り、ふと思い立ち浴室を覗けば、丁度九条がシャワーを浴び終えバスローブ姿で出てきたところだった。 「九条さん…っ!!」 飛びついてきた自分を受け止めた九条が、恋人にしか見せない優しい顔を見せて抱き止めてくれる。 「どうした?」 「…あ、その、九条さんが居なくて、寂しくなって…」 しどろもどろになりながら言って、それから離れようとする。 事件は終わり、無事に帰ってきて、ここはホテルだ。 九条も居るし、あの男に襲われる心配もない。 けれど、普段呑気な祐羽も気づかない所で心はまだ加藤の影に怯えていた。 そんな自分を見抜いたのだろうか「こっちに居る間はお前の側から離れない。だから安心しろ」と言って抱き上げられる。

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