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「でも、ここは九条さんの家ですし、僕は使った事ないですもん」
「そうだよ。僕だってこんな豪華なマンション住んでる訳じゃないもん」
「もんもん言うな~!」
祐羽に続き外崎がそう訴えると、中瀬がキーッと怒った。
「「うわぁっ、怒った~!」」
責められて、ふたりが抱き合い中瀬に悲しそうな顔を向ける。
その顔を見た中瀬は、腕を組んで唸った。
「う…でも可愛いから許す」
三秒後にはそう悔しそうに言った。
「中瀬さーん!」
「中瀬くーん!」
「もうっ、苦しいだろ~放せぇ!!」
ふたりから抱きつかれて中瀬がバタバタしていれば、騒ぎ過ぎたせいか近くで「ンンッ!!」とあからさまな咳払いを受けてしまった。
どうやらエレベーターで降りてきた住人が騒がしさでお怒りになったらしい。
しまった!と反省した三人が口を閉じてそちらを伺うと、相手もまたこちらを見ていた。
金持ちらしいハイブランド品を身につけた熟年の女性が睨み付けて来て、祐羽達はブルリと震えた。
百戦錬磨、負けた事なんてありませんから!といった風貌。
眼光に負け戦を悟って、三人はそそくさとその場を離れることにした。
建物内は静かなだけに、声がやはり響く。
「次からは声量に気をつけよう」と中瀬に言われて三人で「しーっ」とお互いに確認しあった。
「じゃぁ、次はこちらをご案内致しますね」
不動産屋さんごっこの続きを開始した祐羽が案内するのは、先程貰ったパンフレットにある別棟となる。
ちなみにこちらは住居棟となり、階層によって広さや値段が違うので、自然と上階になるにつれて真の選ばれたセレブが住んでいる事になる。
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