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普段上手く感情を殺している、元からあまり感情の起伏が表に出ない九条だが、たまに溜め息をついたりもしてしまう。
こうして気心の知れた相手に限る話ではあるが。
気心が知れるといえば、恋人の祐羽がいる。
祐羽と知り合ってから、得体の知れない感情に振り回され、自分らしくない事も平気でするようになった。
気がつけば全く構える事もなく自然体でいられた。
そんな祐羽は癒しでもある。
どれだけ顔を見ていても飽きない。
どれだけドジをされても怒りも湧かない。
毎日会って側に置いておきたいが、それは叶わない。
今は夏休みということで、以前よりは一緒の時間が長いのが、有り難い。
早く帰りてぇな…。
祐羽を思い出してついそう思っていれば、コーヒーと茶菓子が運ばれて来た。
カップを口にしてひと口飲みながら、祐羽が今頃どうしているか考える。
中瀬と外崎と遊ぶと言っていたが、楽しんでいるだろうか?
(九条さん、九条さん!)
「…」
祐羽の声が聴こえるのは気のせいか?
(これ、食べてもいいですか?)
声のする方を見てみれば、茶菓子のところに小さな小さな祐羽が居るではないか。
お菓子を指差してフンフンと鼻息荒くしている。
………、おい待て。
九条は混乱する頭を落ち着かせようと、思わず額に手を押し当てた。
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