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そんな中瀬の気持ちも知らず、祐羽は子犬がまるで尻尾を振っているかの様に、笑顔で九条を迎えた。 「九条さん、もうお仕事終わったんですか?」 「まぁな」 不穏な空気を漂わせた九条が視線を男達に向ける。 「コイツらが何かしたか?」 「えっ、いやっ、その…っ」 九条の視線を受けてたじろぐ男達だったが、ボールを受けた男だけは違った。 「こっ、コイツの打ったボールが俺のここに当たったんだよ!おまけにラケットまでぶつけやがって!!」 「違うんですよ会長!!確かに当てたけど謝ったし、それにコイツだって祐羽の頭をラケットで叩いたんですから!!」 これは聞捨てならないと中瀬が進言すると、九条の眉がピクリと動いた。 「それに外崎さんのこと、下心全開でナンパしたんですよ!!」 「ほぉ…」 紫藤も表情をスッと冷徹な物に変える。 祐羽と外崎は口を挟む余地はなく、保護者・中瀬が興奮して反論するのを眞山が宥める。 「中瀬、分かったから落ち着け。お前が電話しても出ない理由を理解した」 「あっ、すみません…!」 「眞山さん、すみません。僕か悪いので、中瀬さんを責めないでください」 「私からもお願いします」 祐羽と外崎が中瀬を庇っていれば、男が口を開いた。 「ちょっとちょっと~。話はまだ終わってないっての!オタクら保護者?なら、慰謝料払って貰わないとな」 「慰謝料?!」 その言葉に祐羽がギョッとする。 「ったりめーだろ、あ?それが謝罪ってもんだろ。バーカ!」 祐羽を馬鹿にして笑う男に「慰謝料か?幾らいるんだ?」と九条が訊く。 「ふんっ。そーだな、…百万だ、百万!!」 「百万か」 「そうだよ!慰謝料、百万払え!!」 「価値の無い足だな」 九条がフッと鼻で笑った。

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