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あれはまだ自分が高校入学して少しの春だ。
その春から夏が過ぎて秋。
こうして一緒に居る事に改めて驚きと嬉しさが沸き起こる。
年齢差、同性同士という壁を越えて愛し愛される関係を自分が経験するなんて、生まれてから全く考えてもなかったことだ。
「でも九条さんと会えて本当に良かった」
初めての酷い経験は忘れられないけれど、もう気にしていない。
今が幸せだから忘れてもいいと思っているのか、抱かれたところは覚えているのに、その時の痛みや辛い感情があったことだけが、スッポリ抜けてぼんやりした記憶になっていた。
急に九条の顔が思い浮かんで自然と笑顔になった祐羽は、ひとり恥ずかしくなり頬を染めた。
「よーし。九条さんにまたあの美味しいパンを食べさせてあげるぞ!おーっ!!」
周囲に人が居ないからと、ひとり宣誓した祐羽は「パンパンパン~はどんなパン~?それはとってもフワフワで~」と自作の歌を歌いながら、道をズンズンと進んで行った。
途中、擦れ違った人に見られて歌を止めた祐羽は黙って周囲の景色を楽しみながら歩く。
好きな人の為に朝ごはんを作るということが、こんなにも心踊るとは。
「まだまだ真っ直ぐだな」
勘を頼りに距離を測り、どんどん進む。
散歩するオシャレした犬を見送ったり、綺麗に咲いた花を見つけて喜んだり、知らない街並みに視線を奪われる。
早朝なのでとても静かでほぼ人に会わないせいか、まるで自分が別の世界に迷い込んだ気分だった。
おまけに、ここは高級住宅街なだけに大きな家ばかりで感覚も麻痺してしまう。
九条のマンションももちろん高級だが、それとは別で長い長い塀が続くと、祐羽の子ども心が爆発する。
「おおっ…塀、長い。わっ!?あっちまで続いてる!」
一際大きなお屋敷の塀がどのくらい続いているのか気になって歩数で確かめた。
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