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頭を捻って思い出してみると、レシピを見るために携帯をキッチンカウンターに置いていたのだ。 急いで出てきた事やバッグにいつも入っているという思い込みが携帯を忘れた原因だった。 「スマホ、忘れて来た…」 殆ど誰も居ない早朝の街で、祐羽は自分のうっかりに「うっ」と情けなさから泣きそうになるのを口をへの字にして我慢した。 ・・・・・ ゆっくりと恋人の体温を感じながら寝ていた九条は途中、祐羽が起きてベッドから抜けたのを薄目で確認した。 戻ってくる様子は無く、もうすっかり起きたのだと理解してから再び二度寝に入る。 眠りは短時間で問題なかった九条が、祐羽という恋人を得たことでベッドで惰眠を貪る心地よさを覚えた事は誰も知らないだろう。 安心感というのがあるのかもしれない。 今までは適当に性欲を処理するのに女を抱いていたが一緒に朝まで居た事はなく、家に戻った所で仕事の事が頭を過り、パソコンを開いていたりしたからだ。 なので睡眠は三、四時間もあれば十分だった。 それが今は一緒にベッドに入り可愛い恋人のよがる姿を堪能し胎内へと種を注げば、心も体も満足し、その充足感に睡眠時間も延びていた。 とはいえ、あまり長く寝過ぎても祐羽と過ごす時間が減ってしまう。 起きた九条はバスルームへと向かった。 「朝飯頑張ってんのか」 キッチンから物音が聞こえてきて、祐羽がワタワタしながら料理をしている姿を想像した九条は口元を緩めた。 そうして朝のシャワーを浴びると、身仕度を整えて祐羽の元へと向かった。 そろそろ朝食が出来ている頃だろう。 不器用な祐羽でもさすがに時間的に完成しているはずで、取り敢えず助けを求めて来たり、焦げた臭いはしないので上手く出来たのだろうと安堵する。 そうして九条はリビングへ入り、それからキッチンを見たが、そこに祐羽の姿は無かった。

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