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「おい。祐羽?」
人の気配が一切しない事に気づきつつも、声を掛けてしまう。
パントリーの中もトイレも居ない。
それから自室も見たがもちろん居なかった。
九条は玄関へと向かい、そこに靴が無いことに気がついた。
警備の厳重なこの家に侵入されるのはまず有り得ない為、自ら出ていったというのが正しいだろう。
(こんな朝早くに何も言わずに?)
九条は直ぐ様ポケットから携帯を取り出すと、長い指で操作を始める。
「…」
コールしても全く出る様子がなく、留守番電話サービスへと繋がれた。
数回掛けたが出ないということはサイレントにしたままか、単に気がつかないだけか。
九条は再度操作をして、今度は画面に地図を表示させた。
スマホの位置情報で祐羽の居場所を特定できるアプリだが、アイコンが全く動いていない事が分かる。
表示されているのは、この家だ。
少し探してみれば携帯がキッチンに置いてあるのが見つかった。
再び祐羽の部屋へと向かいチェックをすれば、学校用の鞄はあるが九条がプレゼントしたプライベート用のブランドバッグが無かった。
『小さく模様が無いから』という理由だけで高級ブランドとは思ってない祐羽が、普段九条の家から出掛けるとき気軽に愛用している物だ。
脳裏にショルダーバッグを斜め掛けして玄関で靴を履き、呑気に出掛けていく姿が嫌でも思い浮かぶ。
九条は自室に戻り素早く着替え財布を取ると、スマホと共にポケットへと入れた。
そして急いで玄関へと向かった。
夏休みを利用して出掛けた広島で、とんでもない事件に巻き込まれた祐羽を心配した九条が最低限の位置情報確保の為、携帯にはアプリを入れ学校鞄には黙ってGPSをつけていた。
それが今回はどちらも全く役に立たないとは(さすがアイツだな)と可愛い恋人ながら、本気で頭が痛くなる。
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