878 / 1012

20

けれど、まさかの列が形成されていた。 (わあっ!人が並んでる) 前回は平日の隙間時間だったのでスムーズだったが、今日は休日の朝。 時間に余裕がある人が多く、列が出来るのも仕方がない。 祐羽は慌てて列の後ろに並んだ。 (とりあえずお店についたけど、時間何時だろう?) スマホを忘れたせいで時間の確認が出来ず、九条が起きて来る時間ではないかと心配になる。 できたら「おはよう」の挨拶で迎えて、手作りの朝ごはんを食べて貰いたい。 もう時間が経ってしまい出来立てとはいかないが、温めればいいし、この美味しいパンを出してあげられれば問題ない。 時間は気にはなったが、気にしても直ぐに帰れるわけではないのだからと諦めた。 それにもう店には着いているのだから、あとは買って帰るだけ。 (九条さん、美味しいパンをゲットしますから、待っててください!) 祐羽はそう心で言いながら、鞄の紐をぎゅっと握った。 列が進む度にソワソワする祐羽の耳に「ありがとうございました!」という店員の声が聞こえる。 その後、パンの入った袋を持って客が出てきては、祐羽の横を通りすぎて行った。 焼きたてパンのにおいが漂い、祐羽はクンクンと鼻を鳴らした。 「はぁっ」と、パンのにおいに顔を幸せな気持ちで綻ばせる。 (あと少しだ)と、以前食べたあのパンを思い浮かべつつ、食パンを購入して帰って行く人達を見送り順番を待った。 (お腹空いてきたなぁ…でも、あと三人!) そうして祐羽が店舗入り口に着いた時だった。 店員のひとりが出てきて、列へ向かって衝撃の事実を知らせてきた。 「雲のようなパン、本日分は売り切れました!ご購入希望されていたお客様、申し訳ございません!」 その瞬間、周囲から盛大な溜め息が漏れた。 祐羽も思わず「え…」と、その場でガッカリと肩を落とした。

ともだちにシェアしよう!