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息もできない
男に肌を舌で愛撫される。
本来受けることの無いはずの行為を同じ男の自分が受けている。
ゾワゾワと虫が這いずり回るかの様な感触。
触れられる場所から腐っていくような…。
どうしてこうなったのか?
何故、自分がこんな目に合わなければならないのか。
ぐるぐると頭の中が回り、目眩を起こしそうになる。
そんな混乱と気持ち悪さに、祐羽は羽抵抗も儘ならない。
「い、や。ううっ、う~ッ」
祐羽は、とうとう泣き出してしまった。
元来、気の優しい質で人の悪意や性的な事を含めて、そういう類いの物を殆ど向けられた事の無い祐奈には、到底理解の範疇を越えた行為を強いられているのだ。
恐怖で怯え泣き、震えるしか術の無い祐羽は、男からすると格好の獲物だった。
好色な男は相変わらず下卑た笑みを貼り付かせて、若く瑞々しい少年の体を堪能する。
「ううっ、うぅ~」
祐羽の泣き声さえ男にとっては楽しいBGMにすぎない。
泣かれれば、泣かれる程に気持ちが高揚していくのだ。
何の落ち度もない祐羽を良いようにしようとするこの男。
名前は竹中という、今年五十代半ばになる男だ。
高校中退から、その道へと人生を逸れて生きてきた。
その卑怯で人を平気で騙し陥れる性質から、とある暴力団の最底辺下部組織へと組み込まれた。
このヤミ金の社長という名の地位を手に入れていた。
それさえステータスと思っていたが、まだまだ上り詰めたいと考えている。
自分には天職といえた。
竹中は理不尽な事が大好きで、今までも沢山の女達をその手で金と快楽の道具として夜の世界へと沈めてきた。
見目麗しい青年数人が夜の世界へ足を踏み入れた以外、男に対しては金を法律スレスレの金利で貸し付け、払えない金額を押し付けては法外な取り立てを行い上納金を納めていた。
とにかく、碌でもない男であった。
「若い肌はしっとりと吸い付くようで、やっぱり良いなぁ~。そこらの女より、お前良い肌しとるぞ」
竹中が満足そうに呟く。
汗ばんだ手の平が肌を這って行く。
それから芋虫の様な指が、祐羽の胸に息づく突起へと伸ばされた。
「痛ッ‼」
ギュッと力を込めて摘ままれる。
痛さから声を上げた事で、再び体が動き出す。
「痛いか、そうか、そうか~。でも、これから気持ちよくなるから心配するな」
男は先程よりも体重をかけ、あっさりと祐羽の抵抗を封じ込めた。
クリクリと捏ね回される乳首。
小さく息づいていた乳首も刺激を受けて反応を示す。
嫌だと思っても勝手に勃ちあがっていく。
「イヤッ…、嫌だ‼止めてっ、止めッ…‼」
力では勝てない。
祐羽は顔を左右に振りながら声を上げて嫌だと訴える。
せめて男の情けにすがろうとするも、そんなものを端から持ち合わせていないのだから聞くはずもない。
楽しげに乳首をいたぶる。
「あ、あ、ヤダ、ううっ、うっ」
部屋には祐羽のすすり泣きながら、半ば諦めかけて目を閉じた時だった。
バンッ‼ ガターンッ‼‼ ドガッ‼
「‼⁉」
突然だった。
隣の事務所からドアを開け放つ乱暴な音が聞こえて、祐羽だけでなく上に乗り上げていた男も驚いた様子で顔を上げた。
事務所からは「何だッ‼」と男達の声とガタガタと椅子を倒したような音がしたが、その後直ぐにパタリと静かになる。
「おいっ、どうした…‼」
男が隣へと大声で訊ねるもそれに応える者は無い。
「誰でもいいから報告しろっ‼」
誰の返答も無いことに苛立ちを覚えた男が怒鳴りあげた瞬間だった。
バンッ‼と、祐羽の羽居るこの部屋のドアが壊れるかというくらいの勢いで開け放たれた。
ソファに押さえつけられている祐羽からは丁度背もたれでドアの様子は分からないが、乱暴にも程がある音だった。
「あ…何で…」
竹中が驚きに目を開いた。
しかし、自分を犯そうとしていた男の表情がみるみるうちに青白くなっていった。
そして、それが自分にとって良いのか悪いのか。
逃げ出そうと考えていた祐羽だったが、ガタガタと震え始めた男の様子を見て、想像以上に不味い展開が訪れたと感じた。
ど、どうしよう…。
逃げるどころでは無くなってしまった。
祐羽は息を殺し、ただただ静かに身を小さくするしか無かった。
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