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「あっ、でもクーポンは最初の一杯だけしか使えませんけど、コーヒーもジュースも何でも五十円で飲めるので!」
祐羽は九条に注意事項を伝えると「僕の名前書いてるので、九条さんが来たら声掛けて貰う様にしますね」と照れ笑いを浮かべた。
しかし九条はクーポンを手にしてくれず、少し間を置いて案の定の返答がくる。
「悪いな。俺は仕事で行けないから、中瀬を誘ってやってくれ」
分かってはいたものの本人の口からはっきりと言われると、思っていたよりもショックは大きく、笑顔を曇らせた祐羽は手に持っているクーポンに視線を落とした。
勝手に―もしかしたら九条がクラスへ顔を覗かせてくれるのではないか―と期待していた。
自分の作ったコーヒーを渡して九条が喜んで飲んでくれたり、友達から「もしかして彼氏?」と言われエヘヘと紹介したり、それから一緒に文化祭巡りをする妄想をしていた。
その妄想は一瞬のうちに消えて、我慢していた悲しみが溢れてしまった。
「悪いな。行ってやれなくて」
「うううっ」
泣いて困らせたいわけじゃないのに、気がつけば泣いてしまっていた。
九条の前ではいつの間にか泣き虫になってしまっている様だ。
前なら仕方ないで終わったこんな小さな事でも九条が関係しているというだけで悲しくて涙が勝手に流れてしまう。
涙を拭おうと手で目元を押さえれば、手首を九条に優しく掴まれた。
グズりながら視線を九条へ向けると「すまんな」と言いながらその大きな胸元へと抱き込まれる。
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