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(そうだ。僕、九条さんに怒ってたんだった)
嬉しさに叫びそうになった口を閉じてプンッと頬を膨らませた。
(ダメだ。本当に痛かったから、九条さんには僕の痛さがどれだけだったかを知ってもらいたい)
暫く許さない事で、それだけ痛かったんだと伝えようと決める。
「これ、好きだったろう?」
「…好きじゃないです」
本当は九条の作ってくれる某有名ホテルレシピのフレンチトーストが大好きなのに、そう言ってソファに座った。
せっかく作ってくれたというのに、自分の嫌な態度に胸が痛む。
(でも、でも、だって…我慢だ)
これから先、九条と恋人同士でやっていくのなら嫌な事はきちんと伝えられる関係でありたい。
そうでなければ、きっと我慢しすぎて恋人という関係に疲れが出てしまうかもしれず、そうなると結果は最悪なことになるのではないかと、未来まで考えついてしまう。
(九条さんと別れるなんて嫌だ!)と眉間に皺を寄せて、ひりとり百面相をする。
そんな葛藤する自分の元へと九条が歩いて来ることに気づき、変に緊張する祐羽の目の前に出来立てのフレンチトーストとホットミルクが置かれた。
ついジーッと視線を注いでしまう。
出来立てフワフワのフレンチトーストは、バターでツヤツヤと光っている。
その黄色いフレンチトーストの表面には少し焦げ目をつけられているのだが、それが余計に食欲をそそる。
(う…美味しそう)
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