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「まだ怒ってるのか」
フレンチトーストへ意識を集中させていればそう聞かれ、祐羽は我に返ると慌てて即答した。
「おっ、怒ってます。だって、痛かったですもん」
脳内は七割フレンチトーストに傾いており、残り三割は怒りだが、その怒りもほぼ消滅しかかっている。
「そうか」
ひとことそう漏らすと九条が隣へと座ってきた。
「…本当に悪かった。もうしない」
簡単には許さないと決めた祐羽だったが、九条に肩を優しく抱き寄せられると気持ちが揺らぐ。
おまけに恋人の匂いと温もりは最強で。
それから膝の上に置いた手に九条の手が重ねられ「祐羽」と低音で囁かれれば益々気持ちが揺らぐ。
実際もう九十九パーセントは許しているのだが、最後の一パーセントは無駄な足掻きだった。
うっかり頭を九条の胸元へコテンとくっつけてしまう。
それを受けて九条が小さく笑った様な気がして、祐羽は自分の弱さを痛感した。
次に頭をよしよしされれば、もっとお願いしますと言わんばかりに勝手に体が動いて、九条へ催促してしまう。
恋人はそれに応える様に頭を撫で髪を鋤くと、頬を包み込んで上向かせてきた。
何?と思って見つめれば九条にスマートなキスをされて、もう完敗だ。
「九条さん…」
「冷めるから食え」
「はい」
なんだかもっとキスが欲しくなった祐羽だったが、そう言われては大人しく引き下がるしかない。
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