今までずっと広島の紫藤の屋敷で暮らしてきた外崎にとって、東京は未知の世界だ。 私生活という意味ではなく、組としての紫藤が心配で仕方ない。 紫藤組は広島を拠点に戦後のアングラで躍動し、その結果修羅の地と化した。 血生臭い出来事が続き、紫藤組の容赦ない強さに他組織は壊滅寸前まで追い込まれ諦める形となる。 それから紫藤組が纏める広島は、日本一の組織である篁組だけでなく他の組からも不可侵として扱われ今に至っていた。 あれから時は流れ、徳川家のように表向き広島だけを守って平穏に暮らしていた紫藤組も、二社同盟の相手である篁組以外の敵対組織の最近の動きに敏感に反応していた。 それが今回の東京進出に舵を切るきっかけになったのだった。 現代では広島から舞台を東京に移し、戦後に起こったヤクザ戦争の火種が静かに燻っている。 それがあるから、外崎は紫藤が心配なのだ。 けれど、万が一の時は自分が命をかけても守ると決めている。 「でもね、中瀬くんと祐羽くんに会えるようになるのは本当に嬉しいんだ」 夏以来、会うことの叶わなかった三人だが、これからは時間さえ合えばいつでも気軽に顔をあわせることが出来るようになる。 あの事件で絆を深めたのに離れ離れだなんて、耐えられそうになかったところにやって来た朗報だった。