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 そこには優しい笑顔の浅尾が立っていた。 (いつの間に…っ?!) 祐羽が思わず後ずさると、浅尾が腰に手を当てて呆れた様子で溜め息をついた。 「文化祭の真っ最中に、こんな人気の無いところに何しに来たの?」 「えっと…」 まさか先生を怪しんで後をつけてきたとは言えず、祐羽は言い淀んでしまう。 こういう時に中瀬なら上手く誤魔化すのだろうが、正直者で隠し事が苦手な祐羽はそうはいかない。 「あのー、そのー、えーっと…」 演技力も皆無ともなればどうにもならず。 そんな祐羽の顔を無言で見つめていた浅尾がフッと笑った。 「ここに来た理由はどうでもいいよ。ただ一人で誰も居ない場所に来ないように。文化祭は色んな人が出入りしているから、怖い人が居ないとも限らないから。いいね?」 「…はい」 念を押されて祐羽はショボンと頭を垂れた。 (そうだよね。まだ文化祭の最中なのにほったらかしで、それに中瀬さんと外崎さんを待たせているのに僕ってばダメだ) 祐羽は浅尾の顔を見て、それからまた頭を下げた。 「すみませんでした。僕、戻ります」 「うん。先生は警備担当もしてるんだよ。だからグルッと学校全体を点検してから戻るから。月ヶ瀬くんは先に戻りなさい」

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