脱衣場で服を脱ぐと、直ぐに洗濯機へと放り込む。 洗剤を入れて蓋をすると、スタートボタンを押した。 機械音が聞こえ始め服を洗い出したことが分かる。 バスタオルと下着と服を用意してから、急いで風呂場へ入った。 シャワーの栓を押して水を出す。 聞き慣れた水の弾かれる音に安堵しながら、祐羽は頭から浴びた。 この体に、気持ちの悪い男の手が這ったのだ。 思い出すだけで悪寒がする。 「ううっ、気持ち悪い…気持ち悪い …」 そうブツブツ言いながら祐羽はボディーソープをたっぷりとつけて、体を洗う。 白い肌が赤くなるのも構わずに擦る。 思い出しそうになる度に、他の事を考えて思考を止める。 「なんで僕が…っ、あんな目に…っ⁉」 とにかく男に性的に興奮されたのは、気持ち悪くて仕方なかった。 思い出さない、思い出さない‼ 祐羽が思い出さないように思考を止めた後に何故か出て来たのは、あの男。 「九条さん…だったっけ…？」 ヤクザで怖い大人の男だ。 そんな事は分かっている。 特に言葉を交わした訳ではないし、逆に蹴り飛ばされた。 暴力的でヤクザなのは重々承知の事なのに、何故か九条が頭から離れない。 それだけ九条との出会いは、祐羽には人生最大、衝撃的な出来事だった。 ヤクザの組長。 あの整った顔。 魅惑的な声。 そして、恐ろしい暴力を振る大人の男。 けれど、どうやら寸前で蹴りを止めようとしてくれたらしい事も分かっている。 優しい人なのかな？ 「…でもヤクザだしな。分かんないや…」 昨日の非日常は、忘れるべきこと。 「もう関係ないし、会うこともない…よね…」 祐羽は暗示の様に、自分に言い聞かせていく。 九条に会った事は、人生において二度と経験することのない非日常だ。 もう二度と会うことのない相手。 まるで自分がドラマの主人公になったかの様な気持ちになる。 ほんの一部を垣間見た程度なのだろう。 けれど、一瞬だけで裏の世界は恐ろしいという事実を再認識させられてしまった。 ある意味社会勉強になったのでは…と呑気に思いながらシャワーを終えた。 祐羽は浴室から出て痛む脇腹を見た。 すると、赤と青の入り交じった痣が見事に広がっていた。 「うわぁ～…。なんか、気持ち悪い」 祐羽の肌が白いので、それは余計に目立ってしまう。 「早く新しい湿布貼っとこ」 余りにもズキズキするので、祐羽は髪の毛を乾かすのもそこそこに、部屋着に着替えると自室へと向かった。 湿布を貼り終えると、リビングへと降りた。 「シャワー気持ち良かったか？」 部屋に入ってきた祐羽に、亮介が声を掛ける。 「うん。あ、喉が乾いちゃった」 「お茶飲む？」 祐羽の声に、香織が訊ねてくる。 「うん。冷たいのが飲みたい」 息子の願いを叶えるべくコップにお茶を注ぐと、リビングのテーブルへと運んで来てくれる。 「はい、どうぞ～」 「ありがと‼」 笑顔で受け取って一気に飲み干した。