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時間

暫く道沿いの店を巡っていた祐羽は、近くのカフェに寄る。 「いらっしゃいませ~‼」 店内へ入ると、若い店員に笑顔で迎え入れられる。 注文をしてから暫くすると、ワッフルとバナナジュースがテーブルに置かれた。 プレーンのワッフルはバターが溶けて、口へ入れると祐羽は幸せに顔を綻ばせた。 ジュースを飲みながら窓の外を見る。 向こうからは祐羽が見えていないのか、誰もが前を向いてドンドンと歩いて過ぎていく。 老若男女。 いや、若い人が多いだろうか。 色々な格好をした人達が歩いているのを見るのは、楽しい。 「あ…⁉」 思わず声を出してしまい、慌てて口を閉じる。 全くの人違いだ。 昨夜の記憶が強すぎたのかもしれない。 あの怖いヤクザの男に、一瞬見えてしまった。 よく見ると全然似ていない。 ただ、背が高くスーツを着ていただけだ。 あんな人間は今後、自分が目にする事はないだろう。 非現実的な出来事は、祐羽の頭の中へ根付いている様だった。 ぼんやりと昨夜の事を思い出しているうちに、時間は進んでいた様で、店内の時計を確認すると約束の頃に近づいていた。 「そろそろ行こうかな」 祐羽は、鞄を手にして立ち上がる。 「ありがとうございました~‼」 店員に見送られ外へ出る。 夕闇が少しずつ近づいていた。

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