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第3話 卒業

それから最後の面談があった。僕は想像以上の点数が取れたためボーダーの点数は余裕で越しておりスムーズに話が進んでいった。先生の一次で点が良いからって気を抜かないようにと当たり前のようなことを言われ面談が終わった。そして、海人の番になり進路指導室から怒鳴り声が聞こえた。なんて言っているのかは聞き取れないが海人と先生がもめていることだけは分かる。数分後ドアが思いっきり開く音がして、イライラしている海人が出てきた。 二次試験のため学校は自由登校となり僕は塾と家を行き来する生活となった。いつもは塾にある赤本を解いていたがちょうど貸し出し中でなかったから、学校で借りようと家を出た。学校で目当ての赤本を借りられ学校を後にしようとしたとき、海人の靴があることに気付いた。急いで自分の教室に行き、陰から教室を覗いてみると海人が授業を受けていた。海人の姿を目に焼き付け僕は帰路についた。冬休みに海人が卒業できるか不安だったが今日見た補習で大丈夫だろうと僕の心に言い聞かせた。 二次試験の本番の朝、海人から「合格目指して頑張れよ!俺も頑張るから」という連絡が来た。僕は“俺も頑張るから”とは何のことかは分からなかったが、多分卒業のための何かだろうと思うことにした。僕も海人に「頑張ってくる」とだけ返信して家を出た。 受験会場に着き、案内板に従って教室に入った。僕が受ける学科は定員も多いが受験数も多く二つの教室を使っているらしい。自分の周りに人は単語帳を見たり、問題を解いたりと僕より賢そうな人が集まっていた。自分の方が勉強したんだ。何より海人が応援してくれているんだと自信をもって試験に臨んだ。 試験の帰り道、海人らしき人が教室から出てくるところを見かけたが今までの勉強疲れによる幻だろと気にも留めずに家に帰った。その日はお風呂だけ簡単に済ませご飯も食べずに寝入ってしまった。 卒業式の日を迎えた。試験結果の報告。写真を撮る音。アルバムに書くメッセージ。卒業旅行の約束。別れを悲しむ涙。高校最後の一大行事ともあって学年全体がお祭り騒ぎである。僕は一緒に塾に行っていたクラスメイト達と写真を撮ったり、メッセージを書いたりした。そんな中ひと際浮いている海人の席があった。勇気をだして海人の席に向かった。向かっているとき声が少し止み、時間が長く感じられたが一瞬で騒がしさは元に戻った。 「卒業おめでとう。心配してたんだぞ」 僕は海人に声をかけた。久しぶりに話しかけて緊張した。 「俺を誰だと思ってるんだよ。何とかしてやったぜ」 海人も頑張っていると分かって嬉しかった。 「海人、これ書いてよ」と僕のアルバムを海人に渡した。 「分かった。俺のも書いてくれよ」と僕にアルバムを差し出した。そのアルバムは白紙だった。 「なあ、結城合格発表っていつだよ?」僕のアルバムに書き込みながら聞いてきた。 「来週の木曜だけど」僕は白紙のアルバムに大きくメッセージを書きながら答えた。 「俺もついて行っていいか?」 「、、、、、いいけど。どうしたんだよ」唐突な誘いで反応が遅れた。 「合格してたら盛大に祝うって言っただろ。それ以外にもちょっとあるしな」 海人の照れくさい表情が顔に浮かんでいる。 「なんだよ。今言えよ」 「それは、まあお楽しみにしてな」 騒がしい教室で言えないこととは何か。告白か。そんなわけないよな。海人の話が気になって送辞も答辞もほとんど頭に入ってこなかった。 そして合格発表当日。待ち合わせ時間になったが海人はやってこない。いつものことだと僕は立って本を読んで待っていると短編一つ読み終わりそうな頃だった。 「ごめん、ごめん、道に迷ってよ」海人が謝りながら走ってきた。 「大丈夫、それより連絡くれたら良かったのに」 「いや、それはそうだな。ところで結城、受験番号何番だよ?」 「0167だよ」僕は受験票を見ながら答えた。 少し歩いて結果発表の掲示板に向かった。泣いてる人。喜んでいる人。早速サークル勧誘をしている人。いろんな人でごった返していた。 海人がその人込みをかき分けて進んでいき、僕もその後ろを歩いていった。 受験番号を目で追っていった。0160、62、63、66、67…..あった。 「おめでとう!!あるぞ!!やったな!!」僕が喜ぶ前に海人が口を開いた。 「なんだよ。海人、ありがと。」 僕の頭を激しく撫でて喜びを表現してくれた。 僕は、家に電話をかけ合格したことを伝えた。電話越しに両親の喜ぶ声が聞こえた。 電話が終わった後、僕は初めて海人の進路について聞いてみた。 「そいえば海人、お前はこれからどうするんだよ?」 海人は苦い顔を見せた。一呼吸おいて話し始めた。 「じつはな、俺も結城と同じ大学受けたんだよ」 僕は驚いて言葉を失った。結果を聞こうとしたが聞くよりも先に言われた。 「いやーダメだったは」僕はどん底に落とされた気分だった。 「...今一瞬同じ時を過ごせると思ったのに!」 僕は怒った口調で言った。周りは何があってるんだと怪しい目を向けてきた。海人を責めようと思っていたら、海人が次の言葉を言った。 「でも実はな。結城とは違う他の学科で受かってたんだわ」 僕は狐につつまれたような気持だった。さっきまでの怒りはどこに行ったのだろう。 「!?受かってた…?」僕は確認を取った。 「ああ、0248が俺の番号でほらあそこあるだろ」 海人がポケットから自分と同じ仕様の受験票を取り出して見せてくれた。指さす方と受験票を見比べると確かにその数字が存在した。 「...ほん、とだ。ならこれからも一緒ってことか?」 「ああ、そうなるな」 「やったー!!」 僕は自分が合格した時よりも大きな声で喜んだ。そして疑問に思っていたことをぶつけた。 「いつから、ここ受けようと考えてたんだよ」 「えーと、春休みに結城と話したときかな。センコウに言ったのは最近でめちゃくちゃ怒られてさ」記憶の中で検索をかけると思い当たる節が見つかった。 「あーあれか、進路指導で怒鳴ってた時の」 「そうそう、その時結城と同じところ受けるって言ったら無謀だからやめろって。でも、この学科なら少し偏差値も倍率も低いから併願しろって。で、併願したら合格してたから感謝だよなー」遠くの空を見ながら言った。 「じゃあ、少し前学校で補修を受けてたのは」 「センコウに教えてもらってた」 「じゃあ、あれは補習じゃなかったんだ」 「そうだぜ。今年は冬休みの補習も受けないほどの成績だったんだぜ」 僕の知らないところで海人が勉強していたんだと知り、自分も頑張って良かったと思った。 「そうなんだ。改めて海人も合格おめでとう」 「ありがとな」 少し間ができたから卒業式の話を聞いてみた。 「ところで海人。卒業式に言ってた話って」 「あれなー、ちょっとここじゃあれだからいつもの公園に行こ」 大学を後にして海人と僕は歩き始めた。 いつもの公園に着くとそこはまだ 学校のある平日で誰もいなかった。 春の風が吹きつぼみが色づき始めている桜の木の下にあるベンチで海人は話し始めた。 「なあ、おかしなこと言っていい」妙な切り出し方で何を言われるのかドキドキした。 「内容によるけど」 「俺、結城のこと好きだわ」 風が、ぴたりと止んだ。 唐突な告白で僕は声が出ず、僕の時は数秒止まった。 「えっお前、彼女もいたことあるし、それに中絶とか言われてたのに」 出たのは海人に聞かないようにしていた知りたくもないことだった。 「...やっぱ何でもないわ」海人は誤魔化すように頭を掻いた。 「何でもなくないだろ!ホントのこと教えろよ!」 今までで一番声を荒げて叫んだ。 海人は小さな声で自信なさげにポツリと言った。 「実は中学の頃からお前が好きだったんだよ」 僕には衝撃的な言葉で状況を理解できなかった。 「彼女がいたのはお前への気持ちを無くすためにと」 続けて信じられないことを言っていた。そんな、今まで海人が付き合っていたのは嘘の気持ちだと 「じゃあ、中絶の方は」無意識にさらなる疑問を口にしていた 「それは、あいつが俺に振られて勝手に言いふらしたでまかせ。そんなことも信じてたのか」 「じゃあ、夏休みのときバーでバイトしてたのは?」 「いや、そんなことしてないが..あー塾の上か。お前が見たのは塾からの帰り」 僕が見落としてただけでその下に塾が。 「なら何もないの?」 「そうだけど」 「ごめん。怒って」 僕の目からは涙が溢れ出た。海人はそんな僕の頭を撫でながら 「大丈夫だから。俺も結城に心配かけてすまんな。去年の春休みに忠告までされたのによ」と優しく声をかけてくれた。 「いやいいんだ、僕の勝手な思い違いだし。それよりもさっきの話本当なの?」 僕は涙をこらえながら聞いた。 「あー、ほんとに結城のことが好き。できれば付き合いたい」 現実のことなのに。夢にまで見ていたことなのに。僕の心は迷っていた。今までの関係が壊れてしまうのではないかと。 海人が秘密を打ち明けてくれた。僕も自分の心に素直になろうと決めた。 「...実は僕も海人に隠してたことがあるんだ」 「なんだよ」 「僕も海人のことが好きなんだよ。」 「じゃあ」 「ああ、こんな僕ですがこれからよろしくお願いします」自分の手を差し出した。 「こちらこそ、よろしくな」僕の手を強く握って返事をしてくれた。 僕たちの新たな道を祝福するかのように止まっていた風が吹き始めた。

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