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第4話 番外編(初デート)

ピピピー。ピピピー。ピピピー。と部屋に鳴り響く目覚まし時計を止めた。今日は海人との初デートの日だ。 「おはよう。今日だね」と送ってみる。すぐに既読が付き返ってきた。 「おはよー楽しみにしとけよ」短いやり取りを交わし僕は支度を始めた。 昨夜はベッドに服を広げ自分の体に当て、数時間かけて選ぶほど服で迷った。昨日のうちに決めておいて本当に良かったと思った。まあ、少し寝不足だが楽しみで今は元気である。朝ごはんもそこそこにして家を出発して最寄りの駅まで歩いて行った。約束するとき海人の家まで迎えに行くことを提案したが海人が駅集合を譲らなかった。待ち合わせの時間より少し早いが駅に着いた。少しして海人がやってきた。時計を見るとまだ待ち合わせの時間でもなかった。 「おはよう」海人に声をかけた。 「おう、おはよー」 海人の服は動きやすさを重視してか少しいつもよりラフな格好で気合を入れた僕が恥ずかしくなった。 「結城、今日の服いつもよりかっこいいじゃねぇか。俺のために気合入れてくれたのか?かわいいな」 僕は照れて顔を下げてしまう。 「海人だっていつもは遅刻が多いのに今日は待ち合わせの時間より早くに来たじゃないか」僕も海人に言い返す。 「そりゃあ、大好きな結城と長くいたいからだよ」 僕には言えないキザなセリフをさらりと言ってしまうあたり海人らしい。 「それじゃあ、少し早いけど向かいますかー」 海人の一声で僕たちは改札をくぐり電車に乗った。 僕たちが向かうのは県内に唯一ある大きなテーマパークだ。有名な夢の国ほど規模は大きくはないが、幻想的な世界観を作りこんでおり僕たち県民にとってなじみ深い場所である。最後に行ったのも海人とでその時は家族全員でだったと思う。男二人だけで行くのには周りから変な目で見られるのではないかと少し躊躇いがあった。 電車に乗り込むとちょうど席が空いていたので向かい合って座った。 「海人が言ってたように駅で待ち合わせして良かった」 僕はいつ言うか迷っていたことを口にした。 「そうだろ。やっぱりデートならどこどこ集合がいいよなー結城に迎えに来てもらうのもいいけどさ」 「いつか、海人が僕の迎えにきてくれたらなー」とポツンと言った。 「あー、いつかな。それよりも今日何に乗るか決めてきたか?」 「そこら辺は海人に任せるつもりでいたけど考えてきた方が良かった?」 「いや、決めてきてるけど、、そういえば結城は絶叫系苦手か?」 「うーん、得意な方だと思う」 「なら、最初はジェットコースター乗ろうぜ。あそこ混み始めるとすごい並ぶからな」 最後に行った時も長い行列だったことを思い出した。それから、僕はスマホを取り出してホームページでアトラクションやパレードなどを調べた。 「…観覧車」 「観覧車がどうした」心の中のつもりだったが声が出ていたようで海人が反応した。 「観覧車、乗ってみたいなー」 「なら、観覧車乗ってみるか」 そうこうしているうちに目的地前の駅に到着した。 平日だが春休みと言うこともあり、決して人の数も少なくはない。そしてそのほとんどは家族連れ、女子グループ、カップルばかりだ。僕たちのように男二人で来ている人たちは全く見かけない。そんな空間にいることに居心地の悪さを覚えた。 二人で歩いていると「ねぇ、見てあの人たち...」と言われているような気がした。それを感じ取ったのか海人は 「結城、周りのことなんか気にするなよ。実際自分たちのことで頭はいっぱいなんだし。それでも無理なら男二人の卒業旅行で楽しんでまーす感を出しとけ」と言ってくれて気が楽になった。 僕たちは電車で決めたこの遊園地目玉のジェットコースターを目指した。開園すぐで十分そこらで乗ることができ、爽快感があって楽しかった。 それから、僕たちはいろいろな絶叫系アトラクションに乗り、今は水しぶきのかかる激流川下りのようなアトラクションへと向かっている。 スタッフの人に濡れるから足元のビニールをしてくださいねと言われたが海人は大丈夫だと言って掛けなかった。案の定濡れて服を着替えなければならない始末だ。 「海人、ちょっと早いがお土産買わない?上を着替えるためにさ」 服が濡れてうっすらと肌が見えて嬉しかったが、お土産屋さんでシャツを買わないかと提案してみる。 「なるほど。いいアイデアだな。早速向かうとするか」 寒いのかすたすたと歩いて行った。 海人がシャツを選んでいる間、僕は家族への土産として買うお菓子などを物色していた。いろいろ見て回るといつの間にかストラップコーナーに来ていた。かわいらしいストラップが並び海人とお揃いにしたい気持ちもあったが周りからどう見られるか気にして迷っていたところ肩を叩かれた。振り向くと可愛らしいマスコットがプリントされたシャツを着た海人がいた。 「何見てんだよ」 「ストラップなんだけど」僕はもじもじと答えた。 「なんだよ、欲しいのか?しょうがねえなー」僕の好きな色のストラップを手に取ってくれた。 「..ありがと」 ほんとはお揃いにしたいと言い出せずレジに向かう海人を見ていた。やっぱり、お揃いがいいと海人の分を手に取り僕もレジに向かい会計を済ませた。 店に出ると海人は僕が欲しそうに見ていたストラップを渡してくれた。 「ほれ、結城」 「ありがと」 「結城は何買ったんだよ」 「家族へのクッキー...それと海人に」 お揃いにしたかったストラップを取り出して 「ほんとはお揃いにしたかったんだ。ダメかな...」恐る恐る聞くと 「うれしいよ。結城がそんなこと思ってたなんて。ありがとな」 「そろそろ、飯でもどうだ?」 海人に言われてお腹がすいていることを自覚した。腕時計を見てみるともう1時を過ぎていた。 「いいよ。ちょうどお腹が空いてた頃なんだ」 僕たちはお土産屋さん近くで軽食を買った。ベンチに腰を掛けてサンドイッチを食べようとすると、頭に違和感を覚えた。海人が後ろで何かしているらしい。 「じっとしていろよ」と言われ僕は動かなった。それから海人もベンチに座り隣を見てみると丸い耳の付いたカチューシャをしていた。頭を触ってみると似たようなのが付いていた。 「海人、何つけてんだよ」語気を強めて言うと 「さっき見つけてさ。可愛くてつい」 言葉を続けるよりも早く僕の前にスマホが見えてシャッター音が鳴った。 「もう、外すよ」と頭に手をかけたが防がれてしまった。 「ダメだよ。つけて楽しまなきゃ」 「でも、周りになんて見られるか」 「気にしなーい気にしない」 海人のシャツとカチューシャが相まって笑ってしまいもうどうでもいい気持ちになった。 僕たちはベンチで買ったものを食べた。次来るときは枝分かれしたストローでジュースを飲みたいなんか思ってみた。ある程度食べ終わったころあたりがざわつきだした。自分たちのことかと思ってしまったが、テーマパーク名物のパレードが始まっただけだった。 そのパークのキャラクターたちが歌って踊って見ごたえもあった。近くまで来てくれていっぱい写真も撮ることもできた。パレードが終わるころにはカチューシャのことなんて忘れていた。 パレードが終わり僕たちはお化け屋敷へと向かった。少ししてから入ることができた。待っている間、他の人の叫び声が聞こえて僕は少し震えていた。 「大丈夫。俺が付いてるから」 海人に腕を引かれついていった。お化け屋敷に足を踏み入れてすぐお化けがやってきた。ビクッとしたがそれよりも海人が僕の腕にしがみついてきたことに驚いた。お化け屋敷が苦手なようだ。 さっきまでの頼もしさはどこに消えたのか子どものように僕にしがみついて声を上げる。僕は最初感じた怖さが消え、外の人たちにどう思われているのか気になった。 明りが見えお化け屋敷を出るとさっきまで元気だった海人は憔悴しきっていた。 「海人、大丈夫?」怖いものが苦手だと新しい一面を見れて僕は幸せだった。 「あ、あ、全然怖くなかったぜ」 「強がらなくていいよ」 「...ほんの少しだけ怖かったけど、俺は大丈夫だったな」 素直じゃないがそんなところも好きだ。 「少し、休む?」 「いや、あれに乗ろうぜ」海人は適当に指をさして言った。 「...メリーゴーランドだけど」 「ああ、乗るぞ」後にも引けず海人は恥ずかしがりながらも乗ることにした。 並んでいるときは恥ずかしがっていたがいざ乗ってみると楽しく二人とも笑顔が浮かんでいた。 元気が戻り二人で乗っていないアトラクションを体験していった。時計の針も5時を過ぎそろそろ帰る時間になった。 「海人、観覧車…」 「覚えてる。今から行くぞ」 歩いているときこれから2人きりの狭い密室空間に行くと思うとドキドキした。 到着し、係員に導かれゴンドラの中に入った。向かい合って座る形になり少し残念だった。隣に座ろうと機会を狙っていたらいつの間にかてっぺん付近まで登っていた。 「結城、見ろよ。夕日がきれいだぞ」 窓の方を見てみると確かにきれいだった。オレンジ色の太陽が輝いていた。刻々と周りの景色までもがオレンジ色に変わっていった。しばらく僕は見入ってしまった。 我に返ると海人が横に座り優しく手を握っていた。それから僕の目を見つめた。僕はゆっくりと目を閉じた。驚くほど柔らかい唇の感触があった。唇を離し海人は僕のことを抱きしめた。 「好きだ」 耳元で海人が囁いた。 この時間が永遠に続けばいいと思ったが僕たちに一周は短かった。

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