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act.7 Angelic Kiss 〜 the 3rd day 22 ※

くすぐったそうに何度か瞬きをしてからうっすらと目を開けたハルカの顔は、とても幸せそうだった。心から安堵しているような柔らかな微笑みは、この世界で一番きれいだと思った。 ずっとこうしていられればという願いは、きっと叶わない。それでもかまわないと言ってしまえば全くの嘘になる。 この子は俺の手から離れていこうとしている。どれだけ足掻けば手に入るんだろう。その解が出ることはないということも、俺にはもうわかっている。 「ハルカ、好きだよ」 「……大好き」 囁くようにそう言って抱きついてくるハルカが愛おしくて仕方ない。なのに、ハルカの心はきっと俺には向けられていない。 さっきは勢いに任せて引き止めようとしたけれど、そんなことをしたところでどうにもならないことは頭で十分理解しているつもりだった。 俺を好きだと言うのなら、ずっと一緒にいてくれよ。 その言葉をどうにか呑み込めたのは、俺がつまらない大人になった証拠だ。 「俺もだよ。大好きだ」 しなやかな身体を抱えて起こしながら、汗ばむ肌に唇を押しあてる。首筋を軽く吸い上げて離せば、花弁のような薄紅色の痕が付いた。 ハルカがふわりと柔らかな笑みを浮かべて俺を見上げる。潤んだ瞳は泣いているように見えた。 ああ、やっぱりかわいい。何とかして俺だけのものにしたい。 胸の内でざわざわと湧き起こる葛藤を抑え込みながらミチルの様子を窺えば、じっと固まったままただひたすらハルカに見惚れていた。艶やかな頬は色を塗ったように赤く染まっている。 その視線に気づいたハルカはそっと手を差し伸べて、気遣うように小さな頭を優しく撫でた。 言葉はなくとも、二人は意志を通わせているんだろう。 俺はハルカと向かい合わせに座り、痛いぐらいに張り詰めた半身にローションを塗り込んでいく。焦る気持ちを抑えつけて、丹念に継ぎ足しを繰り返した。 そこに繊細な手が重なって、誘うように緩く扱かれてしまう。ゾクゾクと急速に増していく快感に流されそうになって、俺は慌ててその手を押さえつけた。 「ほら、ダメだって」 息をつきながらそうたしなめると、ハルカは悪戯っ子のように笑って上目遣いで俺を見つめる。愛くるしい眼差しは、涙がこぼれ落ちそうに揺れていた。 何かに導かれるように唇を重ねていく。舌を絡め合って、口の中が蕩けるような感覚を愉しんだ。 熱を帯びた両脇の下に手を滑らせて抱え上げれば、ハルカは膝立ちになって腰を浮かせた。 「タクマさん……」 あと少しの距離で名を呼ばれて、俺はそっと細い背中を引き寄せる。 「ハルカ、おいで」 深く息を吐きながら、ハルカは目を閉じてゆっくりと腰を落としていった。 先端が後孔に触れたかと思えば、ぬるりと何の抵抗もなく温かなものに包まれていく。待ち望んでいたその感覚に俺は何度も息をつきながら、小刻みに震える細い腰を支えてやる。 「あ……あ、ん……っ」 微かに声を漏らしながら、ハルカは快感を身体に刻み込むようにじりじりと俺を呑み込んでいった。 仰け反る背中を片手で支えて撫で下ろせば、ぴくりと中が動いて一層強く俺を締めつける。繋がる部分の肌がぴたりと密着すると、ハルカは少し力を抜いて俺の首に両腕を絡ませてきた。 しっかりと抱き合って、華奢な身体から放たれる甘やかな匂いを胸に吸い込む。 時折誘うように蠢くハルカの中は、じっとしているだけでも本当に気持ちいい。 こうして肌を重ねることで得られるのは快感だけじゃない。心まで満たされるような充足感が全身に沁み渡っていく。愛する誰かとひとつになる幸福感は、何ものにも代え難い。 俺も今まで愛のないセックスを繰り返してきた。だけどそれは自分で望んでそうしてきたわけで、本来こうあるべきなんだということはちゃんと頭の中でわかっていたつもりだ。 生まれたばかりの赤ん坊のようなまっさらの状態で歪んだ性欲を捻じ込まれてきたミチルと俺とでは、愛のない行為であることは同じでも全然事情が違う。 動かないままきつく抱き合っていると、ハルカが堪えかねたように腰を揺らしてきた。官能的にうねるその中が、悲鳴をあげるようにキュッと締めつける。 纏わりつきながら俺を包み込むハルカの中は、もうぐずぐずに蕩けていた。快楽に爛れたそこを優しく擦るようにそっと律動を送ると、ハルカは甘い声を漏らして俺にしがみつく。 揺さぶられる度に、内側で熱が高まっていく。繋がる部分が融けて、このまま二人の形がなくなってしまうような錯覚がした。 「……ハルカ」 「……っ、あぁ……ッ」 愛おしい人の名前を呼びながら突き上げれば、濡れた音と共に上擦った声がこぼれた。 「ハルカ、気持ちいい……?」 次第に動きを速めながら、弱いところをわざと外して抽送を繰り返す。それでもギュッと俺にしがみついて甘い声を漏らしながら、ハルカは深く頷いた。 「気持ち、いい……ぁ、あっ」 抱きしめた身体は汗ばんでしっとりと濡れている。快感を全身で訴えてくるハルカがかわいくて堪らなかった。背中に回した手で陶器のように滑らかな肌を撫で上げると、吐息がこぼれたその拍子に一層強く締めつけられた。 愛おしい想いが後から後から溢れ出てくる。そのままぶつけてしまえば華奢な身体を壊してしまいそうで、がむしゃらに貫きたい衝動を必死に抑えつけながら熟れて色づく唇に口づけた。

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