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act.7 Angelic Kiss 〜 the 3rd day 23 ※

舌を挿し込んで絡ませると、ハルカは気持ちよさそうに唇の隙間から熱い吐息を漏らした。 身体と同じように、心も重ね合いたかった。ハルカは明日にでもこの手の中からすり抜けてしまうつもりなんだろう。 それでも、ほんのひとときでもいい。ハルカは今この瞬間、俺のことをちゃんと好きだと思ってくれている。だからこそ、こうして俺と身体を繋げているんだ。 自分に都合のいい解釈かもしれない。それでも、俺はそう信じたかった。 「ハルカ、好きだ」 唇を離して告げた言葉にハルカは腕の中で頷き、途切れ途切れに声を絞り出す。 「あ、タクマ、さ……っ、すき……」 まるで俺の考えていることを察したかのようにそう言って、ハルカはしがみつく腕に力を込める。苦しいぐらいの快楽に翻弄されながら、俺は嬉しさに頬を緩ませて柔らかな髪を撫でた。 ゆらゆらと波のような快楽に揺蕩うままにそろそろ限界だなと思ったそのとき、ふとミチルの姿が目に入って、俺は反射的に動きを止めてしまう。 潤んだ大きな瞳からは、今にも涙がこぼれ落ちそうになっていた。 悪いことをしたのを見つけられた子どものように、ミチルは罰の悪そうな表情をしてこちらを窺っていた。紅潮した頬、浅く速い呼吸。欲情しているに違いないその顔に、見てはいけないものを見てしまった気がして俺は瞬時に自責の念に駆られていた。 ああ、やっぱりこんなところに立ち会わせるべきじゃなかったのかもしれないな。 セックスは性欲と直結してはいるけれど、大切な相手の聖域に触れる行為だ。ミチルはまだその繊細なニュアンスを理解できる段階にはいない。 唇を噛みしめてどうしようかと思いあぐねていると、身体に絡みついていた腕がするりと解ける。心地よく響く声が耳元で聞こえた。 「ミチル、おいで」 魔法にでもかかったかのように、その囁きに誘われてミチルはゆっくりとベッドに乗り上げる。スウェットの布越しにも、その中心が反応しているのがはっきりとわかった。 俺は抽送を止めたままじっと様子を窺う。ハルカが何をしようとしているのか、ただ固唾を呑んで見守ることしかできない。 ハルカは戸惑いを浮かべる少年を艶やかな瞳で見つめていた。その眼差しに吸い込まれて目が離せなくなる。 「我慢しなくていいよ」 顔を赤らめたまま、ミチルは俯いて詰めていた息を深く吐いた。その手が腰に掛かり、下着ごとスウェットをずらしていけば、はち切れんばかりに張り詰めたものが姿を現わす。まだ幼く柔らかそうなその半身は薄く桃色に染まり、先端から雫をこぼしていた。未成熟な男の象徴が明らかに反応している様は、ひどくアンバランスで背徳的だった。 そして──何よりも、視界に飛び込んできたその異様なものに俺は息を呑む。 ほっそりとした脚の付け根や太股。その白い肌に色鮮やかに散る、無数の花弁。 ごく最近のものと思われる鮮明な赤や、赤紫、薄い黄色。ミチルの肌は痛々しい色合いに染まっていた。 こんなことをしたのが誰なのかは明らかだ。 きっと下半身だけじゃないんだろう。衣服で隠された部分には、狂気に満ちた数の所有印が刻み込まれているに違いない。 これはミチルの身体に刻み込まれた忌まわしい烙印だ。 「──あ、あっ」 か細い声があがったのは、ハルカがその内股に手を伸ばし、痛々しい痕跡をそっと撫で上げたからだった。勃ち上がったミチルの半身がヒクヒクと物欲しげに震えて腰が揺れる。 「一人でできる?」 匂い立つような笑みを振り撒きながら、ハルカはミチルの頬に掌をあてる。男の欲望を持て余した少年は、その美しさに魅入られたように目を逸らすことなくそっと頷いた。 両脚を開いて前屈みになったミチルは、恐る恐る自らの半身に手を掛けて扱いていく。 「……ん、あ、あ……ッ」 唇からこぼれる声はもう欲に蕩け切っていて、快感を追いかけるその姿は思いのほか扇情的だった。何だか妙な気分になってしまいそうで、慌てて視線を逸らす。 余計なことを考えないように、俺はハルカと愛し合う行為で気を紛らすことを選んだ。 スプリングの反動を利用して弾むように腰を動かせば、俺を包み込む中がさざめきながら締めつけてくる。その波に呑まれて意識がずるりと快楽の内側へと引き込まれていく強い感覚がした。 「ハルカ……」 愛おしい名前を呼んで、きつく抱きしめる。合わさる肌は燃えるように熱を孕んでいた。 少しの間、目を閉じてみる。荒い息遣いと、喘ぎ声と、水音と。全てが雁字搦めに縺れ合って、どれがどこから聞こえるのかもわからない。甘やかな匂いで身体の中が満たされていく。 闇を映す瞼の裏にゆらりと何かが浮かんだ。次第に輪郭がはっきりとして、それが白く輝く天使の羽根だと気づく。 こうして感覚を研ぎ澄ましてみれば、ハルカと束の間に紡ぐこの世界は狂おしいほどに淫らで美しい。 ゆっくりと目を開けて、濡れた唇を軽く啄む。幾度か音を立ててキスを繰り返した後、ハルカはするりと俺の身体から片腕を離してミチルを抱き寄せた。 「ん、あぁ、は……っ」 ミチルの肩先が俺に押しつけられた。声が切迫しているのは、限界が近いせいだ。 「ミチル……」 魅惑の声がその名を呼ぶ。ハルカはそっと微笑んで、虚ろな顔でたどたどしく快楽を享受するあどけない少年の唇を奪うように口づけた。 一瞬目を見開いてから、ミチルはゆっくりと瞼を落として薄く唇を開く。

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