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the last act. Plastic Kiss side A 〜 the 2nd day 9※

何度も瞬きをしながら視線を交じらせる。繋いだ手の温もりに、これは幻ではないのだと安堵の溜息が漏れた。 この想いを告げる前は、これ程幸せな未来が待っていることを想像できなかった。 『海の生き物を見に来たんだよね?』 『だって、飛鳥の方がずっときれいだから』 人前でもすぐにそんなことを言って僕の鼓動を逸らせるのは沙生の悪い趣味だ。 羞恥に駆られて鳶色の瞳から目を逸らし、ガラスの水槽を見つめる。 海の月と書いてクラゲ。誰がこの美しい生物にそんな字を当てたのだろう。 闇に漂う無数の月が、僕達を淡く照らし出す。けれど海の世界と比べてこの中はあまりにも狭い。僕は心に浮かんだことをぽつりとこぼす。 『ここに閉じ込められて、息苦しくないのかな』 何気なくそう言った途端、沙生の手が離れていく。名残惜しさに顔を上げれば、沙生は悪戯っ子のように目を細めて微笑んだ。 『案外、閉じ込められてることに気づいてないのかもしれないよ』 この小さな世界が全てだと思っている。僕にとって、沙生のいるこの場所がそうであるのと同じように。 ああ、そうかもしれない。 腰に触れた手が僕の身体を引き寄せる。このままひとつになりたい衝動に駆られて、体内に篭る熱を逃がそうと静かに息を吐いた。 こぽりと音を立てて、水の底へと沈んでいく感覚がする。 もしかすると、本当は浮遊しているのかもしれない。けれど、僕のいる場所からはどうなっているのかわからない。自分を俯瞰することはできないから。 『……あ……っ』 さらりと肩に触れる髪の感触にさえ感じてしまう。胸の突起を舌先で丁寧に転がされて、その度に身体が戦慄く。肌がふつふつと粟立って、内側にどんどん熱が篭っていく。 少しでも快楽から逃れようと背中をシーツに押しつけながらずり上がれば、それを止めるように胸に軽く歯を立てられた。 『あ、沙生……、もう……』 息も絶え絶えに呼びかければ、沙生は顔を上げて僕を見つめる。張り詰めてビクビクと震えるそこに、ほんの少し冷めた肌があたった。 時間を惜しまずにするセックスは苦しくて、狂おしいほどに気持ちがいい。 『……飛鳥、何?』 ささやかな意地悪に羞恥を煽られて、身を捩りながら沙生の腰に下肢を押しつけた。 『ここ、触って……』 けれど続く沙生の言葉に僕の身はぶるりと震える。 『自分でしてごらん』 『……や……っ』 沙生は身体を起こして僕を見下ろす。鳶色の瞳がきれいに煌めき、射抜くような視線が突き刺さる。 時折、沙生はこんな眼差しを僕に向ける。そこには僕の奥底に眠っている何かを目覚めさせるような、有無を言わさぬ強い力が篭っている。 『できない……』 沙生とこうして身体を重ねるようになってから、いつの間にか僕は一人で熱を収める手段を忘れてしまっていた。嫌だとかぶりを振るのに、沙生は赦してくれない。 『ちゃんとご褒美をあげるから』 シーツと背中の間に滑り混んできた手が僕の身体を起こしていく。こうして傍にいるのに、目の前で行為を強要されることに抵抗感があった。 けれど、沙生の意志に抗う術は持たない。 僕はベッドに座り込み、両脚を左右に広げる。沙生の位置からは僕の全てが見えているだろう。 屈み込んで恐る恐る握り込んだ半身は、僕が思っていたよりもずっと熱かった。指を絡めてゆっくりと扱き出した途端、身体の奥がじわりと潤むように疼く。 『……あ、あ……ッ』 触ってほしいと強く思っていた部分がビクビクと震える。そこははち切れんばかりに昂ぶっているのに、どういうわけか欠けた何かを満たそうとすればするほど渇望していく。その矛盾した感覚に僕は喘ぎ、懇願する。 『ああ、沙生……っ』 濡れたように輝く瞳にゆらりと光が燻る。美しいカットを施されたクリスタルガラスを見る度に沙生の眼差しを思い出すのは、その煌めきがとてもよく似ているからだ。 何度も昂ぶりを擦りながら、次第に乱れていく呼吸を整えようと僕は深く息を吐いた。 どれだけもがいても、届かない。ああ、沙生。足りないんだ。 縋るように見つめれば、うっすらとした微笑みを返される。 『飛鳥の好きなところは、どこ?』 『……ん、あッ』 後孔に沙生の指先がそっと触れて、身体がピクリと反応した。けれどその手はすぐに離れてしまう。空いていた左手首を握りしめられて、その部分へと導かれていく。 『あ……沙生』 『ほら、飛鳥。こっちもして』 『や……』 かぶりを振って俯くのに、沙生は構うことなく僕の指を後孔へと近づけていく。ぬるりとそこを滑る感覚に、また身体の芯が大きく揺れた。

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