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the last act. Plastic Kiss side A 〜 the 2nd day10※
『欲しくないの?』
浅ましい欲望を曝け出すのはみっともないことだ。わかってはいても、いらないと答えることができない。
止めてしまっていた右手を動かしながら、僕はもう片方の指先を体内へと沈めていく。そのたどたどしい熱さに喘ぎながら、飢えた身体を少しでも満たすことに意識を集中させようとした。
『ん、は……あぁ……ッ』
微弱な電流が背筋を伝うような、焦れったい快感。普段は自分で触れることのない中は、指に吸いつくように蠢きながら物欲しげにうねっていた。
指先が奥まで辿り着いて、息をつく。いつもとは異なるむず痒い感覚に小さく腰が揺れた。
『ちゃんと、してごらん』
煽るような言葉に僕は頷き、そっと指を動かしていく。握りしめた半身が更に硬さを増していくのがわかった。それを宥めるように、ゆっくりと扱いてみる。
一人では全く気持ちよくなれない。そう言ってしまえば嘘になる。けれど、沙生にしてもらうのとは程遠い。
『あ……沙生……』
中は爛れたように熱を含み柔らかくて、濡れた襞を押しつけるように指に絡んでくる。けれどいくら試みても欲しいところには届かない。軽い絶望感に襲われて視界が潤んでいく。
目の前では、愛おしい人が優しい顔をして僕を見つめていた。
悪いことをするところをじっと観察されているような気になって、つい目を伏せる。それでもなお肌に刺さるような視線を感じて、今度はきつく瞼を閉じてみた。
まだ、駄目なんだろうか。
目を閉じて、意識をその感覚に集中させる。たどたどしい波が身体をじわじわと這っていく。いつも与えられるものと比べれば、あまりにも幼い快楽だった。
沙生への想いを隠していたあの頃、一人でどう処理していたのかを今となっては思い出せない。ほんの少し前なのに、遠い昔のことのようだ。
沙生とこうしていないことが、僕にはもう考えられない。
快感に添わせるように、両手を動かしていく。少しずつ高みへと向かっているはずなのに、僕の身体はどうしようもなく飽いていた。
『あぁ……ッ、ん、は……ぁ』
『飛鳥、気持ちいい?』
耳元で囁く声に身体がビクリと反応する。目を閉じたままかぶりを振れば、そっと笑う気配がした。
『あ、いや……沙生、触って……』
思わず口をついて出た懇願にも、沙生は応えてくれない。沙生に触られている感覚に少しでも近づこうと、いつの間にか僕は闇雲に手を動かしていた。
『あ、沙生、沙生……ッ』
何度名前を呼んでも、僕の身体は闇に放り出されたままだ。行きたいところに辿り着けないもどかしさに、苦しくて涙が滲んできた。
うっすらと目を開ければ、至近距離で沙生が僕の瞳を覗き込む。
『見ててあげるから』
そんな言葉にさえ身体の奥がじわりと潤んでしまう。こくりと頷いた拍子に宥めるようなキスを落とされて、その悦びにまた僕の中が指を締めつけた。
ゆっくり、ゆっくりと底へ向かって沈んでいく。苦しくて吐いた息は部屋の中に溶けて消える。
ぼんやりとした意識の中で、求める感覚を追いかける。
辺りには誰もいない。この世界に存在するのは、僕たち二人だけだ。
『……っ、さ、き……、あっ』
ドクドクと脈打つそこを握りしめたまま、何度も上下させる。見られていることがひどく恥ずかしいのに、それでも僕から目を離さないでほしいと願う。
僕がどれだけ沙生を求めているのか、どれだけ沙生が必要なのか。わかっていてほしいから。
奥には届かない代わりに、ぐるりと中を掻き混ぜてみる。肌が細やかに粟立ち、掌の中で張り詰めたものがビクビクと生き物のように震えた。
『あぁ、沙生、イきそう……ッ』
目を硬く閉じて何度も名前を呼べば、右頬に慣れた掌が触れる。その温もりに安堵して、僕は詰めていた息を吐きながら自らを解放してしまっていた。
『沙生、沙生、ああ、あ……っ』
身体の内側で渦巻いていたドロリとしたものが、先端から迸る。目を開ければ沙生は僕を喰い入るように見つめていた。その瞳には紛うことなき熱が揺らめく。
薄い胸元をはしたなく濡らした白濁を指先に取って、沙生はそっと舐めた。その仕草に果てたはずの身体がまた疼いて僕は息をつく。
沙生は僕をその体内に取り込もうとしている。なぜかそんな気がした。
そっと片手を伸ばすと、その手を取りながら沙生は僕を引き寄せて抱きしめる。ようやく感じられた体温に安堵して、僕は縋るように抱き返した。
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