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the last act. Plastic Kiss side A 〜the 3rd day 14※

達したいのに叶わない。少しだけでいい。沙生がこの根元を握り込む力を緩めてくれれば、僕は解放される。 中を優しく蹂躙する指先が、僕の弱いところを何度もくすぐる度に、苦しくて目尻から涙がこぼれ落ちた。 『沙生、沙生。お願い……っ』 どうして、こんな意地悪をするのだろう。もしかすると僕は無意識のうちに沙生の機嫌を損ねるようなことをしてしまったのかもしれない。 不安で不安で堪らなくて、シーツを掴んでいた手を恐る恐る差し出し、沙生の頰に触れる。僕を映す鳶色の瞳がゆらりと燻った。 ──だって、僕はこんなにも。 『あいしてる』 そう吐き出した途端、屹立するそこを握る手の力が緩まった。瞬時に体内を渦巻いていた精が勢いよく迸る。後孔は何度も収縮を繰り返して、呑み込む指を取り込もうとするかのように締めつけた。 『は、あ……ッ、あぁ……』 ──あいしてる。 絶頂をうっすらと霞みがかった意識の中、僕は沙生の本意に気づく。 この言葉を、待っていたのだ。 二箇所で同時に達した僕は、ビクビクと余韻に震える身体を持て余し、脱力して背中をベッドに預けていた。 果てても尚疼くそこは、特定の熱だけを欲している。 沙生がくれる、狂おしいあの快楽。 『飛鳥』 名前を呼ばれて、ゆっくりと瞼を開ける。わずかな光の中に、愛おしい人が見えた。 手を伸ばせば、そっと引き寄せてくれる。触れた肌に胸が高鳴った。 まるで、夢の中にいるかのように身体が重い。けれど掌に触れるぬくもりは紛れもなく本物だ。 『沙生、欲しい』 ただ言葉でねだるだけでは足りなかった。僕は起き上がって沙生の身体を押し倒し、その中心を弄る。 恐る恐る触れた沙生の昂ぶりは確かに反応していた。僕に劣情を催してくれているという証がひどく嬉しかった。もしかするとこの先、いつか沙生に相応しい人が現われるかもしれない。けれど今は僕を愛してくれている。 握りしめた沙生の先端をそっと口に含んでいく。ゆるゆると、喉奥につかえるほど深く。根元を右手で扱き、舌を使って愛撫しながら引き抜く手前まで頭を動かして、また奥へと呑み込んでいく。 頭に手が掛かって、髪を優しく梳き上げられる。もう片方の手が胸の突起を摘まんで、思わず声が漏れた。 『……ん、ふ……っ』 愛撫を繰り返すうちに、意識が恍惚としてくる。沙生を気持ちよくさせたいのに、僕の方が感じてしまっていた。口の中が性感帯になることを教えてくれたのは沙生だ。 二人の境界が曖昧になっていく。僕が沙生を愛撫してるのか、沙生が僕の咥内を愛撫しているのか。どちらがどちらなのかもわからない。そうこうしているうちに、肌がふつふつと粟立っていく。 『ん……ッ、あっ』 じゅぷりと音を立てて口の中から沙生のものが引き抜かれる。小さく息をついて、沙生は僕に視線を注ぎながらそっと微笑んだ。 瞳の色のせいだろうか。熱のこもった眼差しは、どこか冷ややかにも見える。 『飛鳥、欲しい?』 僕は頷いて仰向きに体勢を変える。スプリングが柔らかくしなる感覚に身を預け、両脚を広げて膝を曲げた。 『欲しい……』 じりじりと焦れるような熱が身体の中を徒らに巡っていた。これ以上体温が上がれば、どうにかなってしまいそうだ。 それでも僕は愛おしいあの熱が欲しい。 脚の間を割り開いて、沙生が指先で僕の後孔を弄る。そこは先程愛された余韻で十分過ぎるほどに熟れていた。 『あ……っ、あ』 あてがわれた先端がぬるりと滑る感触に思わず声がこぼれた。ゆっくりと入ってくる質量を、僕は息を吐きながら受け入れる。 奥へと進むにつれて、満たされていく。繋がる部分がぴたりと密着したところで、沙生はそっとその境目をなぞった。 『ん、ふ……ッ』 『苦しい?』 問い掛けの言葉にかぶりを振った。腰を揺らして律動を促せば、欲しい分だけ快楽を与えてくれる。 『……あ、あぁっ、沙生……』 波のように揺さぶられるうちに、意識が曖昧になっていく。 現実がそれと認識できず、脆く淡い世界に包まれている感覚がする。 朦朧としながらも、僕はぼんやりと頭に浮かぶイメージを追いかけようとしていた。 それは、先の見えない僕たちの姿だ。 これから僕達はどうなっていくのだろう。 沙生と僕に待ち受ける未来がどんなものなのか、なぜだか想像できないんだ。 こうして貫かれたまま、二人で融けてしまうことができればどれだけいいだろう。 子どもだった頃、沙生に教えてもらったことがある。水は循環しているのだと。 空から降り注いだ雨は地面に染み込み、植物に吸収され、或いは地表を流れていく。 けれど、いずれは水蒸気になって空へと戻り、また雨となり地上に降り注ぐ。 僕達も、水になって共に空へ還ることができればいいのに。

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