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the last act. Plastic Kiss side A 〜the 4th day 12※
沙生が僕の両脚を掲げて小さく息をついた。後孔にあてがわれた質量の熱さに身震いする。ぬるぬると弄ばれるようにそこを探る感触に喘ぎながら、僕は沙生を受け容れるために身体を開いていく。
この先に訪れるあの快楽を期待して、そこがヒクヒクと蠢いているのがわかった。排泄器官であるはずの部分は、沙生と僕を繋ぐ掛け替えのない場所となる。
『飛鳥、挿れるよ』
返事を待たずに沙生は僕の中へと入ってきた。二人の熱が擦れ合い、もどかしく燻っていたものが唐突に弾けてしまう。
『──あッ! あぁ、あ……ッ』
躊躇いもなくそこに突き立てられた瞬間、僕は我慢できずに達していた。頭の中が白んで、呼吸が苦しい。
けれど、一瞬飛んでしまった意識は、すぐに現実へと引き戻される。
収縮を繰り返す僕の中は、沙生を取り込もうとするかのように何度も締めつけて離そうとしない。気持ちよくて堪らないと感じる反面、物足りなさに身体は小刻みに震えていた。
大丈夫。限界はまだ先にある。だから、もっと欲しい。
どれだけこの行為を重ねても、僕は飽くことなく沙生を欲してしまう。
じっと動かずに僕を見下ろす恋人の姿が見える。それだけで胸がいっぱいになって、この人とこうしていられることはまさに奇跡なのだと思う。
熱の篭る眼差しが、官能に揺らめく。
ああ、沙生は本当にきれいだ。
神様に愛された、美しい沙生。
まだ小刻みに震えるそこに沙生の半身を咥え込みながら、僕はそっと腰を揺らしてみた。ゆらゆらと快楽の波が湧き起こり、得も言われぬ情熱が僕たちをふわりと包み込む。
二人だけが感じているものが、繋ぎ目から生まれては増幅していく。
ずっとこうしていられれば、どれだけいいだろう。
僕は沙生以外の何もいらない。
人の身体は異物を排出するようにできているのだという。けれど、僕の身体は沙生を異物と認識することがない。
セックスではなくて、沙生と本当の意味でひとつになりたい。そう強く願う。たとえば、沙生が僕であり、僕が沙生であれば。この渇愛から抜け出すことができるのだろうか。
もしかすると僕たちは、元はひとつの肉体に属していたのかもしれない。だからこそ、今こうして別個の存在であることがひどく不安定なのだろう。
身体を重ねる度に、僕たちはかつて一体であったことを想い出し、そしてまたそれぞれの肉体へと戻っていく。
『ん……っ、は、あぁ……ッ』
穿たれる度にぐちゅぐちゅと濡れた音が響いて、軋むスプリングが規則正しい律動の衝撃を和らげる。快楽の波に揺られながら、僕の意識は空気に蕩けていく。
雨に打たれたかのように全身がびっしょりと濡れている。ヒトの体は六十%が水分なのだという。沙生との行為によって、僕を構成する水分が少しずつ体表へと浸み出してきているかのようだ。
このまま全部融け出して、沙生の元へと還りたい。
揺さぶられる度に僕の中を快感が突き抜ける。奥を貫かれる悦びに、一度達した半身は再び勃ち上がって蜜にまみれていた。
『沙生、沙生』
うわ言のようにその名を呼べば、愛おしい人は腕を伸ばして僕の頰に触れる。
この幸せを、どうすれば手離さずにいられるだろうか。
物心ついた頃からずっと慕っていた幼馴染みが、今は愛する人として僕の傍にいる。
そのことに充足感を覚えると同時に、なぜか胸が痛くなるほど締めつけられる。
ねえ、沙生。
僕は生涯、沙生だけでいいんだ。
このまま、二人きりの世界でこうしていることができれば、どれほど幸せだろう。
『飛鳥、愛してる』
一層強く揺さぶられて、ガクガクと身体が上下に動く。訳がわからなくなるほど気持ちよくて、自分の中にあるリミッターが振り切れたのがわかった。
沙生と繋がる部分が熱くて堪らない。そこからどろりと何かが溢れていく。
『──あ、沙生ッ、イく……ッ、ああぁっ』
頭の中を白く閃光が突き抜ける。ビクビクと痙攣する僕の中に、沙生が滾る熱を放ったのがわかった。奥へと送り込むようにゆっくりと腰を動かしながら、沙生は僕にそっと覆い被さってくる。
心地よい重みを目を閉じたまま感じながら、その背中に両腕を回した。
深い海の底へと沈んでいく感覚に身を委ね、僕は呼吸もままならぬ状態で小さく沙生の名を呼んだ。
『沙生……』
もう少し、このままで。
その言葉を紡ぐより先に、沙生が呼吸を妨げない程度の優しい口づけをくれる。柔らかな唇の弾力が気持ちよくて、僕は沙生が苦笑するまで何度もキスをねだった。
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