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act.2 Cherry Kiss 〜 epilogue

父さんにバレてた。アスカと一緒に、内緒で母さんに会いに行ったこと。 あれから父さんのところに送られてきたっていう請求書の内訳。母さんの家までへの交通費が、経費として加算されてたんだって。 アスカ、そりゃバレるよ……。 ガックリ来たけど、実は父さんが知ってたのは請求書のせいじゃなかった。あの最後の日、アスカは父さんに直接母さんの住所を訊いて、こんなことを言ったらしい。 『今、お母さんと会うことで、レンくんはきっと前を向くことができるはずです。レンくんはすごく強い子だから、信じてあげて下さい』 アスカのお陰で俺は母さんと会えたし、自分の立っているところをちゃんと確認することができた。 「家を出たいなら出てもいい。でも、学校にはちゃんと行きなさい。時々は顔を見せに帰って来てほしい。お前はたった一人の息子だ。大事に決まってる。でも父さんにはもう一人、大事にしたい人がいるんだ」 俺は素直に頷くことができた。だからと言ってあの女を受け入れることはできないけど、父さんの気持ちも少しはわかる気がしたんだ。俺も、アスカが望むならどんなことだってしただろうから。 「アスカさんと、マスターに感謝しないとな」 父さんがポツリと呟いた。 「廉さん、忘れ物はありませんか?」 我が家の家政婦、原田さんが学校へ行こうとする俺を玄関先で見送ってくれる。もうすぐ一人暮らしが始まるから、こういう生活を送るのもあと少しだ。 よく考えれば一人で住むのっていいと思う。なんせすごく自由だし、夜遅くまで遊んでても誰にも叱られない。女の子だって連れ込み放題。まあ、まだ相手の予定はないけど。 「大丈夫だよ、原田さん。俺、家を出るんだから、自立したいし。過保護にしなくていいよ」 「あら。私、旦那様に廉さんの新しいお住まいでのお世話を頼まれてますから」 え、なんて? びっくりしてると、畳み掛けるように言葉が返ってくる。 「おひとりでは淋しいでしょう。私がついていますからご心配なく」 原田さんがにっこり笑うと、丸い顔がもっと丸くなった。 もうすぐ始まるのは、一人暮らしじゃなくて原田さんとの甘い半同棲生活なのかもしれない。 「お前、最近ヤバイよな」 意味のわからないことを言う篤史に、俺は思わず訊き返す。 「何がだよ」 「何かその……雰囲気が」 さっぱり意味がわからない。 最近、なぜか俺が篤史とデキてるって言う変な噂が流れたりもしてるけど、それでも俺は女の子にそこそこモテて、そこそこ楽しい学校生活を送ってる。 「あー……童貞捨てたからかな」 「ええっ? いつの間に? 誰とだよ!」 捨てたっていう表現は間違ってるな。女の子は初めてをあげるのに、なんで男は捨てるって言うんだろう。 俺の童貞と一緒に消えてしまったキレイでエッチなアスカ。 あの淋しそうな笑顔を思い浮かべると胸が締めつけられて、それでも俺は幸せな気分になるんだ。 「……ナイショ」 アスカ。俺、結構うまくやってるよ。今でもアスカのことが大好きだし、想い出すと胸が痛むけど。 いろんなことを教えてくれたあの4日間と、甘い花のような匂いを俺は絶対に忘れない。 そして、アスカと出逢う人が皆必ず思うに決まってることを、俺も心から願う。 どうか、アスカが幸せになれますように。

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