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act.0 Sanctuary Kiss side A 〜 the 4th day 5 ※

中の弱い部分を何度も強く擦り上げるうちに、下肢が浮くような感覚がして、僕は一番深いところに辿り着いていた。 「あぁっ、あ、ァ……ッ」 中心から飽和して溢れ出た快楽の波が身体の隅々まで行き渡り、全身が小刻みに震える。 固く閉じていた瞼を、うっすらと開ける。真っ白になった頭の中に、徐々に景色が流れ込んでくる。荒く息をしながら指を引き抜けば、水音が小さく鳴った。 恐る恐る見上げれば、クリスタルガラスみたいに煌めくきれいな瞳が見えた。 さっきまで僕を高みに導いていたその手を取って、掌に受け止められた白濁をそっと舐め取る。舌に乗せた苦味を移すように、口づけた。 「……ん、ふ……ッ」 きつく絡め取られて悦びに震える舌を巧みに吸われ、息継ぎの合間に声が漏れた。柔らかな舌が咥内を這うその動きに、僕の意識は曖昧に揺らぐ。 僕たちは契約を交わす。これは、僕をこの世界に縛りつける儀式。 口づけながら僕は密着していた身体をそっと前に押し倒す。仰向けになった身体の膝上に跨がって、そそり勃つものに丁寧にローションを塗っていく。少しの間上下に扱いて、括れのところをそっと指でなぞれば熱く昂ぶるものが応えるように小さく動いた。 僕は腰を浮かせて、それを体内にゆっくりと沈めていく。快感がじわじわと響くように全身に広がって、熱くぬめる感触を最奥まで飲み込んだ。 「……っ、ぁ……」 息を殺したまま、僕は下肢を震わせて軽く果てた。荒い呼吸を整えながら、身体を前に倒して広い胸に預ける。 あのとき、僕はこの身体にサキの証を刻み込んだ。これからはきっと、サキを忘れるために抱かれていき、ここを貫かれる度にサキを思い出す。 胸に耳を付けると、少し速い心臓の音が聴こえる。そのままじっとしていれば、空気に溶けていける気がした。 そして──揺蕩(たゆた)う意識の中に、優しいあの声が流れ込む。 『飛鳥』 僕は目を閉じて、息を潜めながら耳を澄ませる。 『愛してる』 その言葉は、甘く緩やかに僕の全てを満たしていく。 『愛してるよ』 ああ、サキ。僕も、サキのことを──。 奏でられる響きに涙をこぼしながら何度も頷いた。 緩々とした律動が始まる。繋がっているところが擦れる度に生まれる快楽は、僕の心に沁み渡り、解すように融かしていく。 「あぁ、あ……っ」 身体に回された腕が、汗ばむ肌をずるりと滑った。もう一度、今度は強い力でしっかりと抱きしめられる。 僕は目を開けて見つめる。同じところに堕ちて、罪に濡れたこの身体を抱いてくれる唯一の人を。 穢れた身体も、犯した過ちも。何もかもが融けて、無に還ることができたら。 「あ……、あ、イきそう……ッ」 積み重なる波が幾度も僕を飲み込んでは、より深いところへと沈めていく。腰を揺らしながら口づければ、絡まり合って更に奥底へと誘われる。 「アスカ……ッ」 唇を離せば苦しげな声が僕を呼んだ。激しく突き上げられて遠退きそうな意識を必死に繋ぎとめながら、その身体にしがみつく。 「──あぁ、あっ、ああ……ッ」 到達して悦びに震える最奥に、熱い飛沫が放たれる。 朦朧とする意識が、長引く余韻に呑まれて漂っていた。ゆっくりと、深く深く沈んでいく。 この世界の底を這うように浮遊しながら、僕は願う。 ──サキ。僕は、生まれ変わりたい。 『飛鳥、話があるの』 扉を隔てて聞こえてくる姉の声は、ひどく低かった。 『開けてくれるまで、ここを離れない』 話を聞くつもりはなかった。僕は返事をせずに部屋の片隅で息を詰めたまま、ただ身を潜める。 徒らに時間が過ぎていく。いくら待っても、ルイが離れる気配はなかった。尋常ではない何かに怯えながら、僕はとうとう根負けして部屋の扉を開ける。 今一番会いたくない僕の姉が、目の前に立っていた。大きな瞳から注がれる静かな強い眼差しに、堪え切れず目を逸らす。 サキを失った僕たちは、沖を彷徨う小舟のようだ。けれど、ルイはもう波止場を目指している。なぜかそんな気がしていた。 姉とこうして向き合うのは、随分久しぶりだ。いつもほんのりと薔薇色に輝く頬には色味がなくて、ひどく顔色が悪かった。 『……何』 やっとのことで絞り出した声は、ざらざらと乾いていた。ルイは射抜くような瞳で僕を見つめ続ける。 ああ、どうして神様は僕の姉をこんなに可憐に創り上げてしまったのだろう。 ルイを前にすると、胸の中に澱んでいた醜いものが溢れかえってくる。堪らなく惨めで、寒くもないのに身体が小刻みに震えていた。 ゆっくりと、ルイの唇が動く。 『私、赤ちゃんができた。沙生の子よ』 時間が止まったような重苦しい空間に、秒針が時を刻む音だけが満ちていた。 絶望とはこういうことを言うのだろう。そんな思考が、混乱した頭の片隅をよぎった。 『嘘だ……』 『本当よ。今、妊娠七週なの。沙生も知ってた』 ──どうか、俺の望みを叶えてほしい。 あの日、病室でルイに電話していたサキの言葉を思い出す。 『私、絶対に産むわ』 美しい花弁のような唇からこぼれるのは、世界を覆す残酷な言葉。 『この子は、沙生の希望なの』 サキの血を継ぐ子を、ルイが産む。 ──飛鳥、生きてくれ。 僕には、サキの生命を繋ぐことができない。

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