154 / 337

act.6 Platinum Kiss 〜 the 4th day 6 ※

枕元に細い手が伸びるのが見えた。その指先が銀色に光るアルミ箔を摘まんで戻ってくる。 それを破り小さな錠剤を取り出して、アスカは躊躇いもなく自らの口に入れた。 「アスカ……」 戸惑いの声を出す男に美しい微笑みを向けて、アスカはもう一錠を取り出し口に含む。 「昨日、すごく気持ちよかったね。今夜も使おう……」 低く艶やかに囁きながらそのまま男に覆い被さり、深く口づけていく。 二人の舌先で欲望の薬が甘く溶け合う。この男を地の底へと陥れる、甘美な毒だ。 唇を離した途端、アスカは男の身体を指先でなぞりながら辿り降りていく。 「ね、……こっちに来て」 誘う声に従って起き上がり、男は枕元に座る。アスカが巧みに誘導していくその先は、俺の潜むクローゼットの隙間から男の下肢が視界に入る位置だった。 アスカはそそり勃つものの根元を握り込み、焦らすようにゆっくりと喉奥まで咥え込んでいく。そのまま上下に愛撫していくと、すぐに乱れた息遣いが聞こえてきた。 時折水音を立てながら、アスカは恍惚とした表情で愛おしそうにそこを扱いていく。丁寧な口淫は、まるで恋人に対してのものであるかのようだ。 やがて男の口から吐息混じりに小さな呻き声が漏れて、アスカの動きが止まった。 浅く咥え込んだまま、最後の一滴まで搾り取るように何度か手で根元を軽く扱いてから、欲を吐き出したものをそっと口から出す。 アスカは上体を起こして、熱い視線を男に注ぎながら小さく喉を鳴らしてその滾りを飲み下した。 「……エイジさん」 キラキラと煌めく瞳を男に向けて名を呼び、うっとりと微笑む。その幸福そうな顔に、思わず目が釘付けになった。 『僕、あの人のこと嫌いじゃないよ』 つい先程聞いたその言葉を思い出しながら、俺は呆然とアスカの表情に見入り、そして否が応でも気づいてしまう。 ああ、アスカはこの男に好意を抱いているのだ。 欲を吐き出したばかりだというのに、男のものは一向に萎える気配がなかった。もう薬が効いているのだろうか。その呼吸は浅く短い。 「ここ……触って」 アスカが甘えた声でねだり、しなやかに脚を開いていく。その角度は、間違いなく俺に見えるように向けられていた。 他人のセックスを覗き見ているものの、極度の緊張のせいで俺の下半身は全く反応していない。 見られていることを自覚しているにもかかわらず、アスカの中心は先を濡れそぼらせながら硬く張り詰めて勃ち上がっていた。 「お願い……」 懇願の言葉とは裏腹に、瞳には相手を挑発するような光が浮かぶ。この状況に置かれて素面で欲情できることが、俺には信じられなかった。先程アスカが口にしたのは、昨日の薬ではない。ただのビタミン剤のはずだ。 男の手が伸びて、アスカの半身を性急に扱き出す。 欲に昂ぶるものを自らの身体に沈めていきながら、歓喜の声を漏らしてアスカは背中を逸らした。男がその背に手をあてて支え、自らの方に強く引き寄せる。 「あ、ぁ……すごく、気持ち、いい」 首に両腕を絡めて抱きついたアスカは、ゆっくりと腰を揺らしながら、体内に硬い熱を受け容れていく。 不意に、濡れた瞳が男の目を盗んでこちらへと向けられる。この状況を見ている俺に対して、自らの意志を表しているのだ。 艶やかな眼差しには紛うことなき強い覚悟が確かに宿っている。その視線をまともに受けた俺は、心臓を射抜かれたような衝撃を受けた。 自分が何をすべきか、アスカは忘れてなどいない。 快楽に溺れることも情に流されることもなく、意識をきちんと本来の目的に向けながらも、あの男との最期の別れを身体に刻み込もうと堪能している。 そんなアスカの姿を目の当たりにしているうちに、俺は次第に戦慄を覚えだす。 ──アスカ。お前は愛おしい男の生命が奪われようとしているのに、進んでそこに加担することができるのか。 ベッドのスプリングが激しく軋む度に俺の胸は騒ぎ立ち、寄せては返す波のようにざわめく。 固唾を呑んで見守る俺の視界の中で、二人は激しく上下に身体を揺らしながら、もとが対であったかのようにしっかりと抱き合って互いの身体を貪っていた。 「ああ、アスカ、アスカ……」 絶頂が近いのだろう。男はうわ言のように繰り返し名を呼ぶ。その背中を何度も掌で宥めながら、アスカは秘めやかに微笑んだ。 「……いいよ」 心地よい響きを含んだ優しい声は、赦しの言葉を紡ぐ。いっそう強く打ち付けられたその楔に、しなやかな身体が大きく震えた。 ふたつの喘ぎ声と呼吸が混ざって、縺れ合う。 「……ああ、ぁ……ッ」 男が達してからもアスカは引き抜くこともせず、緩々と自らの腰を浮かせては降ろす動きを繰り返し始めた。 それに促されるように再び腰を動かし出した男の顔を見て──アスカは、哀しげな微笑みを浮かべる。この世の終焉を見届けるような、慈悲深い眼差しで。 「エイジさん……」 欲望に取り憑かれた男の虚ろな瞳を覗き込みながら、アスカは自然な動作で枕の下に手を差し入れた。 「少し、変わったことをしようか」 小さく鳴り響くのは、硬質の金属が触れ合う音。 催淫剤を飲み、強い快楽で判断力の鈍った頭では、何が起こっているかをきっと瞬時には理解できないだろう。 アスカは男の両手首を取り、抱きつくように後ろへと回していく。カチャリと何かが嵌る音が二回続いた後、引っ掛かるような金属音が聞こえた。 カチカチと冷たい音を立てて、金属の輪が段階的に締まっていく。

ともだちにシェアしよう!