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初夏のさわやかな風が頬を撫でる感覚に、うっすらと目を細めた。ゴールデンウィークが過ぎて直ぐの学校はどうにもやる気が起きない。 柔らかく包み込み込むような空気が心地よくて、屋上の壁に凭れると杉山大我は大きく伸びをした。 眼下に臨むグラウンドでは直ぐそこに迫った体育祭の準備が着々と進められており、賑やかな声がここまで響いている。 大我は今、絶賛サボリ中である。 「……かったりぃ」 勉強も、人間関係もこの所全然上手くいかない。やる事なす事全てが空回りしてばかりで、そんな自分自身が嫌になる。 原因はもうわかっている。 このもやもやとした気持ちがなんなのかも。 「……はぁ」 澄み渡るような空に浮かんでいる雲を眺めながら、大我は本日幾度目かの溜息を吐いた。 最近、同じクラスの高橋湊の側に居るのが辛い。初めて見たあの日からずっと、湊の事ばかりを思い続けてきた。 自分は決して男が好きなわけではない。AVだって普通に見るし、ちゃんと女性の身体に興奮できる。なのに何故か、あの男の事が気になるのだ。 最初は友達になれたらいい。くらいの軽い気持ちで近づいたのに、三年に上がった今、”友達”以上の関係になりたいと思う感情が芽生え始め、その欲求は日々大きく膨らんでしまっている。 同じクラスになり、彼の事を知れば知るほど自分のモノにしたい。清純で魅力的な輝きを放つ彼を自分の下に組み敷いて無茶苦茶に啼かせてやりたいと言う邪な妄想が広がってゆく。 湊は無垢だ。清純で穢れを知らない真っ白な存在。あの精錬された空気の前では下品なエロ本の話なんてとても出来やしない。  正直、精通しているかどうかも怪しい。いや、さすがにそれはしてるだろうけども。 あの陶器のように白い肌が上気してしっとりと汗ばみながら一人でヌイている姿を想像してみたことがあるが、パンドラの箱を開いてしまったかのような背徳感を覚えた。 何人たりとも踏み入れてはいけない聖域、謂わば高嶺の花。  本人はそんな風に思っていないのかもしれないが、少なくとも自分の中での湊はそんな存在である。 だがしかし、綺麗なものほど穢してしまいたくなるのが男の性と言うもの。欲望は日に日に大きくなり今にも暴走してしまいそうな状態にまで膨れあがってしまった。 このままでは折角手に入れた時々話をする友達と言う地位まで失ってしまいかねない。 それだけは、絶対に嫌だ。 沈み込んだ気分には空の青が眩しすぎる。 読みかけの小説を顔に掛けて、大我は深く息をついた。眠気は無かったものの、静かに目を閉じていると段々と意識が遠のいていくのが分かる。微睡みの中で授業の終わりを告げるチャイムが耳にぼんやりと響いた。

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