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それと同時にガチャリと戸が開き、大我は驚いて顔に乗せていた本を落としてしまった。心臓がうるさいほどに打ち鳴らされているのが分かる。密かに震える手を左胸に添えた。 思わずスパイ映画か何かのように壁に背を預け、肩越しに戸の方へと視線を向けると、そこに見覚えのある黒い髪の青年が立っていた。 強い風が吹いて漆黒の髪が僅かに揺れて、白い上履きがザッと床を蹴る。真っ白い体育服に紺色のハーフパンツ。 そう言えばうちのクラスも次の授業は体育だった。 なんで――なんで、湊がこんな所に? 気付かれないようにと息をひそめ、落ちた本を慌てて拾い上げた拍子に大我の上履きが地面と擦れ鈍い音を立てた。 途端に背中を冷や汗が流れ落ちる。ざあっと耳の奥で血の気が引いていく音が聞こえた。 「誰かいるの?」 案の定、その音に気が付いた湊が少し緊張気味の声を出す。大我は逃げることもできないまま固まって、近づいて来る足音に息を呑んだ。 落ちつけ。落ちつけ……! まさか、こんな場所で湊と出くわすなんて! 「あっ! 杉山君!?」 給水タンクの角を曲がって大我見つけると、一瞬目を見開き湊は飛び上がった。大我は思わず顔を背け心許なく視線を彷徨わせる。まじまじと見降ろして来る湊の顔を見る事が出来ない。 「どうしてこんな所に?」 「別に。授業がタルかったからサボっただけだ」 本当は、湊の側に居るのが辛かったから。なんて、口が裂けても言えない。 クラスメイトと楽しそうに話している姿を見るだけでも苛々して、どうしようもなく憂鬱な気分になってしまう。 だから屋上へ逃げたのに、まさか本人と出くわすなんて! 「チクりたかったら、チクってもいいぜ」 別に先生に媚を売るつもりなんて無いし、元よりいい子で居ようとも思っていない。 今は以前ほどではないにしろ、昔からヤンチャばかりしていた。だから教師も呆れて最近は大我には強く言ってこないのだ。 「……言わないよ。」 僕も、同じだから。そう言うと、湊はゆっくり大我の隣に腰を下ろした。 一体どういうつもりなんだ!? と、焦ったのは大我の方。そして、自分と同じ。とは――? 「実は、僕もサボりなんだ」 「――は?」 少しはにかみながらの告白。大我はそれを瞬時に理解する事が出来なかった。 湊がサボり? 真面目で、優等生の湊が? 全く想像がつかない。 「実は、体育が凄く苦手で……特に走るの嫌いなんだ。だから、気分が悪いフリをしてよくここに来るんだけど――まさかキミがいるなんて思わなかったよ」 「そ、そう……だったのか」 全然知らなかった。そう言われてみれば何度か体育の授業で湊が居ない時があったような気がする。 いつも真面目に授業を受けているイメージが強いので、誰もサボりだとは思わないのだと湊は悪戯が見つかってしまった子供のように笑った。

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