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探偵と刑事と走る男・二△

 このままの流れでいけばおれはアッパー!? アッパーなら喘いじゃだめだ! なぜかそんなことを思い、気持ちいいけど唇を噛みしめて声を我慢する。こっちがあんあん鳴いてたら、シドもヤル気を失くすよな。  と思っていたら、彼は一度おれを解放した。ぶるんと揺れて口から出てきた自分を見て、そのでかさに我ながらびっくりする。相当興奮している。シドの口の端からはたらたら唾液が垂れていた。それに、糸を引くカウパー。唇を舐めて、彼は微笑んだ。 「エドの、とってもおっきいね。かわいい」 「うあ、ありがとう、ご、ございます……」  真っ赤になって照れたら、シドはダメ押しのように「かわいい」と言った。それからちょっと自信なさげな顔になる。 「気持ちいいか?」  わかってないのか。おれは必死で「気持ちいいです!」と声を大にした。あの人はへらっと笑って、「よかった」とささやく。おれのこの勃起ぶり、気持ちよくないわけないでしょう。  シドはもう一度フェラに戻った。皮をはむはむ啄んで、くびれを圧迫し、根元をべろっと舐める。熱い口の中と柔らかい肉、それにざらざらした舌で責められて、おれは興奮しながら自分がイかないか心配だった。おれ、堪え性がないってシドに言われるんだ。自分でもそれはわかってる。ボトムのときはすぐイってしまう。でも、今日はだめだ。  腹に力を込めて耐えていると、シドはおれのモノを口の中から出した。竿をぺろりと舐めて、おれの目をじっと見つめる。 「する?」 「え……」  期待してたけど、いざ誘われたらおれは固まって、生唾を飲みこむことしかできない。シドは起きあがるとおれの胸にぴとっと耳をくっつけた。 「心臓、ドキドキいってる」  おれはシドの半分白くなった頭を抱いて、そのまましばらく立ち尽くしていた。 「します」  ぽそっと言うと、彼は笑った。 「うん。しよう。ゴムとローション取ってくる」  そう言って部屋から出ていく夫のがっしりした背中とついでにケツを見送り、おれはいそいそとカウチに乗せていた着替えを床の隅っこに置いた。  シドは言ったものを用意して戻ってきた。それから、おもむろに下を脱ぐ。見ると、シドのモノもギンギンになっていた。おれは唾液を飲みこんだ。うれしかった。バイセクシャルのおれとは違い、シドは根がヘテロだ。昔は年下の女性と結婚していた。だから、おれとのセックスで興奮してくれることが本当にうれしい。  おれはじーんとしながら利き手の人差し指にゴムをかぶせて、ローションを垂らして塗りたくった。そのあいだに、シドは背中を向けてカウチに四つん這いになっている。くっとケツを上げてくれるので、おれは彼のバックに回った。  シドのケツは本当にきれいだ。引き締まって、むっちりしていて、成熟したオスの色気を感じる。しばらく眺めたあと、おれはゴムを嵌めた指できゅっと閉じているアナルをマッサージした。  夫の緊張が伝わってくる。当然だ。おれに後ろを許してくれたのは、これで五回目なんだから。「エドのお尻はもうゆるゆるだな」とシドにふざけて言われるけど、彼のそこはまだガチガチ。初々しくて、触れなば落ちん花のようだ(おれはなにを言ってるんだ?)。  ブラウンがかったピンクのそこにもローションを垂らすと、シドの腰がふるっと揺れた。顔が見えないと心配だ。 「シド、大丈夫ですか?」  声をかけると、彼は「大丈夫」と答えた。腕の中に顔を埋めている。  おれは慎重に指を中に入れた。シドは無言だ。中はすぐに指に吸いついてきた。この時点ですでに気持ちいい。入れたい……! ギンギンにそう思いながら、それでも慎重に指を進める。第二関節まで埋めても、シドは無言だ。ただ、息が荒い。 「痛くないですか?」 「うん」  短い返事しか返ってこない。おれはそっとシドの前にもう片手を回した。シドの体がぴくっと跳ねる。振り向いて、「なに?」と言った。 「あ、いやその、ちんこ触ってたほうが気がまぎれるかなって」 「ありがとう」  シドは苦しそうな顔で言った。おれの胸がずきっと痛む。そうだよな、我慢してくれてるんだよな。早く気持ちよくしてあげたい。  おれはシドのちんこを握った。毎回そうだけど、慣らしている段階では、シドのちんこは萎えかけている。おれは急いで上下に扱いた。 「ん」  シドが息を漏らして、腕に顔を埋める。おれの手の中で、彼の牡はふたたび芯をとり戻しはじめていた。そのことにほっとして、中に入れた指をくっと曲げる。ゆっくり動かして、中を慣らしていく。シドの中はきつくて狭くて、懐くことのない狼のようだ。……って最初はそう思ってたけど、どうやら違うってことがわかってきた。腹を見せてくれる瞬間がある。おれが指で広げたり、身動きしたりすると、くにゅっと動いて広がってくれて、指を優しく包みこんでくれる。  乱暴にしちゃだめだ。おれは自分に言い聞かせて、指をくぷくぷと埋めていった。シドの中はあったかくて、欲情と幸福がこみあげる。  征服したい。自分が掘られているときには思いもしなかった感情を感じて、股間に痛みが走った。  シドのモノを扱きながら、指を増やす。じゅうぶん慣らせたと思えるまで、ゆうに四十分くらい経っていた。秋だけど閉めきったバスルーム、高揚もあいまって、おれたちは汗だくだった(それに脱いでるのは下半身だけだし)。  いよいよだ。おれは緊張しながら指を抜いて、自分のモノにゴムをかぶせる。シドが振り返って、「ひとりでできる?」と訊いてくれる。おれはこくりとうなずく。毎回、するときはシドがゴムをかぶせてくれるんだ。今日はひとりでした。  シドの薄青い目は欲情で据わっていた。その飢えた狼みたいな目を見て、おれの体にぞくぞくっと震えが走る。食い殺されたい。そう思った。  ……いやでも今日はおれが食い殺すんだ。自分に言い聞かせ、木の幹みたいにどっしりしたシドの腰を掴む。 「今日は、バックでいいですか?」  うん、とシドが答える。バックは初めてだ。これまで騎乗位三、正常位一の割合だった。バックからのほうが掘りやすそうな半面、アッパー初心者のおれは顔が見えないから不安にもなる。そのとき、急に思いついた。おれはカウチから降りて、薬なんかをしまっている戸棚に向かった。 「エド?」  シドがささやく、その少し心細そうな声にまで昂ぶってしまう。おれは戻ると、手鏡を差しだした。 「これ、持っててくれませんか? 顔が見たいから」  シドは無言になった。顔がかすかに赤くなる。 「……うん」  そう言って恥じらったように目を泳がせた姿が、おれを殺した。  がっちり腰を掴む。眺めがいい。形のいいケツに濡れたアナル。もう我慢ができない。  それでも、おれは自分のモノを握って、亀頭を慎重にゆっくり中に埋めていった。 「く……」  シドが苦しそうな声を出す。顔を伏せているが、それでも鏡はしっかり握ってくれていた。おれはゆっくりちんこを入れた。たちまち、柔らかい肉の襞がおれを包む。きゅうっと吸いついてきて、狭くて、あったかくて最高だ。やっぱりアッパーはいい……!  腰を振りそうになるのを抑えて、ゆっくり埋めていく。狭いので掻き分けるように、割り開くように。シドの中はおれにぴったり吸いついて、広がってくれる。 「エド、待って……う、動かないで……」  荒い息をつき、苦しげなシドに、おれは腰を止める。彼の首筋や背中にキスし、「大丈夫ですよ」とささやく。  シドは眉間に皺を寄せて目を閉じていたが、目を開くと、鏡越しにおれと視線を合わせた。 「いいよ、動いて……」  おれはまた、おとなしく、少しずつペニスをシドの中に入れていく。中はきついけど、指で慣らしていたのと五回目なこともあって、次第におれを受け入れてくれる。時間をかけて、根元近くまで入れた。シドのケツがひくひく動いている。鏡の向こうで、彼は目を閉じていた。汗のにじむ上気した顔がエロい。おれは夫の中で、さらにでかくなっていた。  シドのケツがひくんと揺れる。 「ん、エド、おっきい……っ」  かすれた低い声でささやく夫に、おれの股間はギンギンになる。彼の背中にキスして、あいしてますとささやく。シドは笑ってくれた。 「ぼくも」  そうささやき、腰をくねらせた。  おれはゆっくり掘っていった。負担にならないようにゆっくり引いて、軽く押しあげる。 「んう……」  シドは声を漏らして、ケツを上げた。おれはがっちりつかんで、自分のペニスで擦るようにピストンを繰り返す。トントンと奥を叩くと、シドの腰がびくっと跳ねた。  シドは、まだケツだけではイけない。おれは前に回した手で夫のペニスを握った。そこは硬くなって、反りかえっている。勇気がわいた。ちんこを扱きながら、ぐっと突き入れる。シドは上体を反らして「あ」と声を漏らした。  おれは前立腺を狙うことにした。シドも、そこで気持ちよくなったことがある。だから急いでそこを探した。でもなかなか見つけられなくて、焦る。思わずおろおろと探るような責めになったおれに、シドは優しく声をかけてくれる。 「焦らなくていいからね」  おれはその言葉に慰められながらポイントを探した。そんなに奥じゃないってことはわかる。おれがおたおたしていたら、鏡越しのシドと目があった。彼は微笑み、「愛してるよ」と言ってくれた。  ようやく手ごたえを感じる。ちょっと硬くなっているそこをちんこで擦るようにしたら、シドは腰を反らした。 「ん、そこ、いいよ……っ!」  そう言ってくれるのに励まされ、そこをごりごり突き刺す。 「あ、うっ」  シドは喉を鳴らして背中を反らす。ケツを揺らし、「いいよ、エドっ」と鳴いてくれる。シドの中はきゅうきゅう締めつけてくる。揉みくちゃにされて、おれも腰が止まらなくなった。必死で腰を振り、ぱんぱん打ちつけたり、カリで擦る。 「あっ、エド、いいっ、おっきいよっ」  シドは積極的に声を出してくれる。汗で濡れた尻を左右に振って、おれのものをがっちり咥えこんでくれる。  そのとき、おれはシドが意外と声を出すタイプの人だということを思いだした。黙っていることも多いんだけど、それでも、自分がアッパーをしているときやおれがフェラをするとき、「いいよエド」「気持ちいいよ」「上手だよ」と褒めてくれる。声を出したほうが気持ちが伝わる、という信条を持っているらしい。  特に、今はおれを不安がらせないように積極的に喘いでくれているらしい。  その心遣いにじーんとしたし、なにより感じている低い声に興奮した。おれはがつがつ突きながら、シドのケツを堪能した。それに、表情。眉間に苦悶とエクスタシーの皺をくっきり刻み、彫りの深い顔を歪めている。頬は耳まで上気して、細めた目から涙がぽろぽろとこぼれる。 「ん、ん……!」  カウチに指を立ててうめく夫を、おれは後ろからばこばこと掘った。 「シド、好きだっ」  おれは腰を振りながら言っていた。 「すきです、すき……っ」 「うっ、ん、ん……っ!」 「シドっ……!」 「エド、すきだよ、エドっ」  おれたちは獣のように吠え、折り重なって互いを貪った。おれは鏡越しに、シドの浮かべるエクスタシーの表情を食い入るように見つめていた。  おれが先にゴム越しに中で達し、そのあとシドのモノを扱いて彼も出した。おれは彼の背中に頬を押しつけて、荒い呼吸を抑えようとしていた。シドのごつごつした背骨が頬に当たる。全身を襲う脱力感。そして、一気に下がるテンション。我に返ると同時にひどい罪悪感や抑鬱を感じる。  シドにひどいことをした気がして、そして自分が汚らわしいもののように思えて、しばらく落ち込んでいた。 「エド」  おれの下でぽつりとシドが言った。 「よかったよ。上手だった」 「……ほんとですか?」 「うん」  上下するシドの肩に手を乗せて、おれはささやいた。 「また、してもいいって思いますか?」 「うん」  そのとき、鏡にシドの顔が映った。彼は柔らかく微笑んでいた。  おれはシドの逞しい体を後ろからぎゅっと抱きしめた。 「ねえ、シド」 「ん?」 「あなたの妻でよかった」  彼は笑って、おれの髪をくしゃくしゃ撫でた。

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