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探偵と刑事とエスの心【調教篇】・一△
言ってたのと違う、とベッドの中でエドワード・ウィルクスは思った。
「きみが仕事から帰ってきてごはんを食べたら、夜は調教するからね」
十三歳年上で同性の結婚相手、シドニー・C・ハイドにそう言われてから、ウィルクスは自分の心をごまかせなかった。夜をとても愉しみにしていたのだ。
しかし、仕事中はそんなことにうつつをぬかしてはいけないと思う。だからウィルクスは勤務中、鉄壁の意志の強さで乗りきった。むしろ、頭と肉体が「そっち」に行かないように努力していたため、いつもの二割増しで威圧感が出た。
美男子ながらやや強面で凛々しいウィルクスは、その日、増した威圧感のため強姦未遂の男を怯えて泣かせた。さらに、三十数件の詐欺事件を起こした男に真顔で「もう二度としません」と誓わせた。
とにかく仕事はうまくいった。警視庁を出るまで怖い顔のままで、それはハイドが待つ家に帰宅するまで続いた。
ウィルクスは本当に愉しみにしていた。それなのに、ハイドがその夜ベッドで言いだしたことは予告と違っていた。
騎乗位とフェラを仕込みたい、って言ってたのに。
そのつもりだったウィルクスは不意をつかれた。じつは帰宅途中の電車の中、スマートフォンで騎乗位のやり方を調べることすらしている。以前、初めてその体位でしたときは手探り状態だったので、今夜は予習をと思ったのだ。
スマートフォンの画面と睨めっこして、真剣に調べる。しかしネットの記事はすべて女性を前提に書かれたものだった。それだったら位置が違うかなと思い、ゲイ向けのやり方を調べようとしたら電車が最寄り駅に着いていた。
シドに「こうやって」「もっとこうして」と指示されながらするのもいいかな。なにせ調教だし。ウィルクスはそう思い、ネットを閉じると凛々しい顔つきで夜道を歩きはじめた。
それなのに、である。
ハイドはエビチリとかに玉、チャーハンとバンバンジーのサラダという中華風の夕飯を準備して待っていた。ビールを控えめにして、いっしょに食事をする。デザートも出た。近くのスーパーで買ったマンゴープリン。
食事が終わると、ハイドは食器洗いが担当のウィルクスに「あとでいいよ」と言った(「きみも毎日仕事で疲れてるし、食器洗い機を買ってもいいね」とも言いながら)。それから「シャワーをしておいで」。
ウィルクスは期待しながらシャワーを浴びに行った。しかしこういったやりとりのあいだじゅう、彼は期待していることを微塵も表にあらわさなかった。相変わらずクールな顔のまま浴室に消える。
しかし本当は待ち遠しかった。すでに軽く反応しそうになり、風呂場で冷たいシャワーを脚のあいだに当ててなんとか落ち着こうとする。一応成功して、ウィルクスは一人きりなのに凛々しい顔で体を念入りに洗った。
風呂からあがり、Tシャツとスウェットパンツに着替える。冷房の効いた部屋で汗を乾かしているあいだにハイドも浴室へ行った。二十分くらいして出てきた彼は上半身裸で、下はゆったりした茶色のパジャマのズボンを履いていた。パートナーの逞しい半身を見て、ウィルクスの胸で鼓動が高まる。
ハイドはにこにこして、「行こうか」と言った。ウィルクスは黙ってうなずく。大きな手で手を包まれて、彼は戦いに出向く騎士のように、ハイドのあとについて寝室に続く階段をのぼっていった。
そして、ベッドで夫に言われたのだ。
「きみはこのところ早くイってしまうから、今夜はその堪え性のなさをなんとかしようね」と。
「い……言ってたのと違うじゃないですか!」
ウィルクスが思わずそう言うと、ハイドは小首をかしげた。
「なにか言ったっけ?」
「き、騎乗位とフェラを仕込みたいって、前に……」
「ああ、フェラはしてもらうつもりだよ。騎乗位はまた今度にしようね。今夜はきみがすぐにイっちゃわないように調教する」
ベッドのふちにいっしょに腰を下ろし、ハイドに後頭部を抱えられて額に優しくキスされて、ウィルクスはどう拒んでいいのかわからなかった。それに、たしかに自分でも思ってはいた。彼は目を伏せ、赤くなった顔で認めた。
「た、たしかに、おれは最近早いです」
「前戯でイっちゃうからね」
「う……。すみません。い、入れられてるときも、いつもあなたより早くイってしまうし」
「きみはそれだけ敏感なんだよ。すばらしい素質だ」
にっこり笑うハイドにウィルクスの眉は吊り上がる。体をもじもじさせ、じっと夫の目を見つめた。それから、思いきって言った。
「でも、やっぱり早いのって……よくないですよね」
「そうだねえ、相手がいるときはよくない場合もあるね」
「や、やっぱり……長く愉しめるほうがいいですよね?」
「調教していい?」
「……い、いいですよ」
ハイドは嬉しそうに笑った。そのふんわりした笑顔は穏やかで優しくて、ウィルクスの目にはとても狼には見えなかった。
しかし、ハイドは狼だった。
大きな手が背中を這うと、ウィルクスは恍惚となった。手のひらは熱く、Tシャツ越しに触れられても熱と重みが伝わる。彼はぴったりハイドにくっついた。年上の彼はかすかに微笑み、ウィルクスの唇にキスをする。お互いそっと唇を開いて、手を重ねあわせるようなキスをした。ウィルクスは貪りつきたい心を抑えた。あくまで寄り添うように、心重ねるようにキスを続ける。
そうだ、これが大人のキスなんだ。ウィルクスはハイドの舌にキスしながら自分に言い聞かせる。まだ若いウィルクスはハイドの余裕に憧れ、かつどうしようもなく煽られた。ウィルクス自身は、軽いキスなのにすでに脚のあいだが身をもたげつつある。しかしパートナーのキスは優しく、ライトで、まるでほのぼのと指でも絡めているようだ。
ちゅっと音を立てて唇を離すと、ハイドはパートナーの目を見てにこっと笑った。ウィルクスの目はすでに、欲情の熱で曇りつつある。彼の短い前髪を掻き上げ、浮いた頬骨を手の甲で撫でて、ハイドは耳にキスをする。ウィルクスの肩がぴくっと跳ねた。彼はハイドの厚い胸に顔を押しつけ、腰に腕を回した。ハイドも抱きしめ返す。ウィルクスは小さな声でささやいた。
「……あの、シド」
「なんだい、エドワード君」
「すぐにイかないように調教する、って、どうやって? こ、コックリングとか、使うんですか?」
「コックリングなんか知ってるのか?」
「べ、勉強したんです」
「えらいね。いいこいいこ」
ハイドに頭を撫でられ、ウィルクスの表情がとろけて緩む。思わず微笑みを浮かべ、汗がにじんだ体をハイドの体に押しつけた。小さい乳首が可愛いなと思い、ウィルクスはじっと見る。そのあいだに後頭部を抱き寄せられた。
「でもね」ハイドは落ち着いた声で言った。「コックリングは射精管理に使うものじゃなくて、勃起の質をよくするために使うんだよ」
「そうなんですか?」
「うん。おしかったね。今日は使わないよ。今夜はね……」
ハイドに両肩をつかまれ、ウィルクスは顔を上げた。薄青い瞳が彼の目の中を覗き込む。すでに脳も肉体もとろけていた彼は、ハイドの目が据わりかけていることに気がつかなかった。
もう一度、そっとウィルクスの唇にキスをしたあと、ハイドはパートナーに覆いかぶさった。ベッドが軋む。ウィルクスはベッドに横たわると目を伏せ、赤い顔のまま唇に薄ら笑いを浮かべた。ハイドがキスをする。
今度は貪るようなキスだった。ウィルクスの目の端に涙が浮かぶ。顎をつかまれ、息ができないほど深く舌を絡められた。舌で口蓋を舐められると、ウィルクスはぶるっと震えた。興奮と快感で背骨がぞくぞくする。ハイドの手がTシャツの裾から中に入ってきて、乳首に触れた。
ウィルクスは目を閉じ、夫の手に身をゆだねようとする。しかし、ハイドは手を止めた。
「エド」耳元でささやく。「後ろを向いてごらん」
涙が浮かんだ目を開け、ウィルクスはぼんやりした眼差しをハイドに向ける。このまま気持ちよくしてくれるんだと思いこんでいたウィルクスは、ハイドの言葉がよくわからなかった。彼はもう一度、ゆっくり言った。
「後ろを向いてごらん」
ウィルクスはのろのろと上半身を起こし、それから後ろを向いて正座のような格好になる。ハイドは彼の腰を軽く叩き、「よつんばいになって」と命じた。
言われたとおりによつんばいになったウィルクスの尻を、ハイドはスウェットパンツ越しに叩いた。もしかしてスパンキング? 焦げ茶色の瞳の中でウィルクスの瞳孔が開く。彼は尻を叩かれることがとても好きだった。
しかし、ハイドはたんに軽く叩いただけで、今度はウィルクスのスウェットパンツに手を掛けた。ゆっくり膝まで下ろし、脱がせる。ぴったりと貼りついたボクサーパンツの下で、肉の薄い尻がかすかに揺れた。
ハイドはさらにボクサーパンツも脱がせた。この段階で、ウィルクスは耳の裏まで真っ赤になっている。しかし、黙ってうつむいていた。
「尻を上げて」
そう命じられ、ウィルクスは羞恥に震えながら裸の尻を上げる。ハイドはまじまじと鑑賞した。
肉が薄くて引き締まっているのに、下のほうがちょっとぷにっとしていて可愛い。割れ目の下に、だらんとした袋が見えているのも可愛い。
両手で尻をつかみ、軽く揉んだあと、そっと割れ目のあいだを開いてみる。ウィルクスはぴくっと跳ねたが無言のままだ。色づいた蕾がきゅっと閉じているが、呼吸するようにかすかにひくっと動いた。
おれはヘテロのはずなのに。いつのまにか男の尻と性器に興奮するようになってしまったな、とハイドは冷静に思う。しかし彼の目に、ウィルクスのそれは女の性器と同じ意味をもって映る。
蕾にちゅっとキスすると、ウィルクスは「ひ」と声を漏らした。
ハイドはナイトテーブルの引出しからコンドームを取り出した。小さな袋の封を破り、避妊具を人差し指と中指にはめる。次に、同じく取り出したローションで二本の指をたっぷり濡らした。
それからウィルクスの尻にもローションを垂らす。冷たくてとろっとした感触に、ウィルクスはぷるぷる震えた。腰を揺する。尻のあいだに垂れたローションは彼の菊座も濡らした。ハイドはコンドームをはめた指でその場所をゆっくり、円を描くようにマッサージした。アナルはぷっくり膨れて、ぬらぬら光っている。
「もうちょっと尻を上げて」
耳元でささやかれ、ウィルクスはさらに尻を持ち上げる。すると、いきなり人差し指と中指の先がクッと中に入ってきた。
歯を食いしばり、ウィルクスはシーツを握った両手に力を込める。指は中と外の境目を軽く擦った。思わず締めつけようとして、尻がかすかに揺れる。肌はすでに汗ばんでいた。
ハイドの指は少し進んで、第二関節まで入る。弾力のある筒がうねうね動きながら指に吸いつくので、ハイドは一度指を大きく一回転させて中を擦った。
「あ……っ」
ウィルクスはうめきを漏らすとぴくんと跳ね、シーツを噛んだ。内股になり、シーツに食いこませた足の指に力を込める。
「きみはすぐイくから」ハイドがささやいた。
「イくのを我慢できるように、今夜はこれで気持ちよくなりなさい」
ウィルクスの体がびくっと跳ねて、みるみるうちに泣き顔になる。ゆっくりと埋められた二本の指の腹が敏感な場所をそっと押さえつけた。
「あ、や、いやだ……っ」
喉を震わせ、ウィルクスはシーツをぎゅっとつかんだ。しかしハイドの指に少し強くその場所を押さえられ、裏返った声が漏れた。
「嫌なのか?」
耳元で低い声がささやき、ウィルクスはがくがく頭を縦に振った。しかしハイドの目には可愛いおねだりにしか見えない。
「我慢しろ、とは言ってないんだよ」ハイドがささやく。「ただ、ここで気持ちよくなりなさいと言ってるだけだ」
指をぎゅっと押しつけると直腸が痙攣し、ウィルクスも痙攣した。口が勝手に開き、端から唾液がとろっと垂れる。ハイドが指を曲げて手前を掻き回すと、ウィルクスはぽろぽろ涙を流した。
「この硬くなったところなら、いくらでもしてあげるよ」
ハイドに指でその部分を擦られ、強く押しつけられて、ウィルクスの中で快感が弾け飛んだ。ペニスを触られるのとはまた違う、快楽の熱い海に全身浸かったような感覚に痙攣が止まらなくなる。しかし、ウィルクスは首を横に振った。
「嫌なのか?」
ウィルクスはがくがくうなずき、かすれた声で「ちんこ……」と漏らした。
「ん?」
指で弱点を擦りながらハイドがささやくと、ウィルクスは首を横に振った。ぎゅっと中を締めつける。口の端から涎れがだらだら垂れ、朦朧となった目ですがりつく。
「ち、ち、ちんこは、く、くれない……?」
「あげてもいいけど、ここしか責めないよ」
ぐっと指を押しつけられ、少し強く擦られて、ウィルクスは「ひっ」と声を漏らした。体を丸め、いやいやをするように首を振った。
「欲しいのか?」
ハイドの声にウィルクスはがくがく首を振ってうなずく。ハイドはくすっと笑った。
「きみは本当にペニスが好きだな。……ここ、気持ちいいか?」
指を強く押しつけられて、ウィルクスは痙攣しながらうなずいた。強く擦られ、嫌なのに体がびくびく跳ねる。
「だめだ、こ、コリコリしないで……っ」
必死に訴えるがハイドは無視し、その場所を二本の指の腹で強く圧迫し、執拗に擦った。電流が走ったようにウィルクスの体が跳ね、誘うように淫らな目になる。
しかし、彼は責められながら首を振った。
「うあ、いや、ゴリゴリしないでっ」
「ゴリゴリしても大丈夫だろう? だってきみのおちんちん、全然勃ってないんだよ」
ウィルクスはとっさに自分の脚のあいだを見る。性器は萎えて、しかし頭からはだらだら涎れが垂れて糸を引き、光りながらシーツと繋がっていた。羞恥で目の前が真っ赤になる。血が激しく流れ、汗が噴き出し、頭が割れそうなほど痛くなった。
「きみはここが好きなんだろう?」硬くなった場所を押し上げながらハイドがささやく。「どうなんだ?」
喉から情けない声が漏れ、ウィルクスはぐったりベッドの上に身を投げ出した。反対に尻を高く上げ、ハイドに急所を責められるのに合わせて卑猥に腰をくねらせた。
「もっと強くしてあげようか?」
低い声が耳元で優しくささやく。ウィルクスは思わずうなずいていた。
指がぐりぐりと硬くなった場所に押しつけられる。
「っう、う……」
痙攣しながら、ウィルクスは直腸をぎゅっと締めつける。しかし指は屈せず、尻の中を拡げるように動いたあと、さらに急所を強く擦りあげた。直腸は悲鳴を上げるようにすぼまり、とろけるように柔らかくなる。
ハイドはさらに、えぐるように指を押しつけた。
「もっと?」
ウィルクスはがくがくうなずき、尻の中を緩め、締めつけるのを繰り返した。ゴムのように弾力があり、あたたかい肉の筒に身を埋めてハイドの目はますます据わる。彼は唇の端で微笑んだ。ぐっと強く指を押しつけ、ぐりぐりと擦る。ウィルクスは背を反らしてのけぞった。体が跳ね、薄い胸が上下する。
頭をシーツに擦りつけ、ウィルクスの体が海老のように痙攣する。「あーあーあー……」と声を漏らしながら唾液を垂らし、中で絶頂を極めた。
それでも射精していないことを確認し、ハイドは満足する。ウィルクスの頭を撫でると、彼の髪は少し湿っていた。体から濃い発情の匂いがする。
「エド、じゃあ」ハイドは細めた目で微笑んだ。「フェラ、してくれるか?」
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