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探偵と刑事とエスの心【調教篇】・二△
ウィルクスはベッドに沈みこんだまま、ぷるっと震えた。ハイドは指を引き抜いて汚れたコンドームを捨てると、注意深くパートナーの頭に触れた。
「エド? 平気か?」
ウィルクスの肩が上下している。首筋や背中には汗がにじんでいた。彼はハイドに背を向けたままうなずき、ただれた目を開けた。ハイドにうながされ、すべり落ちるようにベッドから降りて床に座りこむ。
ハイドはベッドのふちに腰を下ろすと、うつむいたウィルクスの頭に触れ、顎に触れた。顎をつかんで上を向かせる。
「顔、どろどろだな」
ハイドがささやくとウィルクスはまたぷるっと震えた。彼はハイドと視線を合わせず、病的に赤らんだ顔のまま目を伏せている。口元が緩く、半開きで、赤い舌が覗いていた。
目を伏せたまま、ウィルクスはパートナーの脚のあいだに顔を埋めた。ハイドもまた興奮していることが、ウィルクスにはうれしかった。体が痺れるほどの幸福を感じて、太く硬く、発情の匂いを放つ牡に顔をすり寄せる。
亀頭にキスし、滲みはじめた露をぺろっと舐める。大きく口を開け、赤くなったそれを一口で飲みこんだ。頭を下にスライドさせて、肥え太った亀頭を喉の奥まですべらせる。口の中で脈打つそれを頬張って、吐きそうになるのをこらえて喉を締めた。
狭まった喉に締めつけられ、ハイドはさらに昂った。彼はウィルクスの口淫が好きだった。昔はそれは下手だった。ぎこちなくてもどかしく、思いきれていないせいで中途半端。してもらっているハイドのほうが気を遣うほどだった。しかし今では経験を積み、ためらいをなくし、なによりウィルクス自身、フェラチオを愛するようになっていた。彼はとても巧くなり、ハイドの悦ぶやり方を習得していた。
ゆっくりと肥大した頭を吐き出し、竿を舐める。鼻先を擦りつけてしゃぶり、袋を唇で甘く啄んだ。ふたたび男根を口に咥え、ゆっくり喉の奥まで押しこむ。ハイドはパートナーの頭を撫で、股間に貪りついている顔を目で犯した。長い睫毛の奥でとろけた目を見てさらに昂る。
「ん……、ぐっ」
ウィルクスはひくんと跳ねる。大きくなったそれが喉をえぐり、一瞬戻しそうになった。それでもこらえ、頬の肉で搾りとるように肉棒を吸いあげる。溢れてくる先走りを、涙を流しながら懸命に吸った。
苦しそうなその顔を険しい表情で見つめ、ハイドの唇にかすかな笑みが浮かぶ。汗で湿った茶色の頭を撫で、視線をちらりと下にやった。ウィルクスの片手が宙に浮いた状態で止まり、小刻みに震えている。
「エド」ハイドは優しくささやいた。「自分でしてもいいが、もし射精したらペニスはあげないよ」
ウィルクスはぷるっと震え、朦朧とした目を上げた。怒張を吸いながら宙に挙げた手を力なく下ろす。彼の脚のあいだはすでに張り裂けんばかりに昂っていた。ハイドは据わった目でウィルクスを見つめ、優しく無感情な笑みを浮かべる。頭を撫で、頬骨を撫でた。
「きみは触らなくても、フェラするだけでイってしまいそうだな。……淫乱な、悪い子だ。我慢しなさい」
さらに大きくなる肉棒を口に含んだまま、ウィルクスはかすかにうなずいた。口の端から唾液が垂れる。頭をスライドさせて、さらに奥に入れようとした。
「上手だよ」ハイドがささやく。「もっと奥まで口に入れて。でも、苦しかったら吐き出していいんだよ」
ウィルクスはちらっとハイドを見上げて、さらに奥に入れた。「んむっ」とうめき、鼻からカウパーが逆流する。ハイドが拭いてやると、ウィルクスは幸せそうな目をしていた。
ゆっくり頭を上げて咥えたものを口から出すと、そそり勃っているため性器はぶるっと外に溢れ出てきた。唾液とカウパーが繋がってウィルクスの口から糸を引いている。赤黒くなった頭と逞しい竿をぼんやり見上げ、ウィルクスは口を開けたまま顔を上げた。
年上のパートナーを黙って見上げる。欲情のために痛々しいほど曇った目をして、ウィルクスはかすかに喉を震わせた。
「ち……」
かすれた声でつぶやいて、ウィルクスはふたたび黙る。ハイドは優しく彼の顎をつかみ、顔を覗きこんだ。
「どうしたんだ?」
視線が合うとウィルクスはすぐに目を伏せ、薄ら笑いを浮かべた。それから焦点の合わない目で、「ちんこ」とつぶやいた。
「く、ください……」
「入れてほしいのか?」
ウィルクスはこくっとうなずく。汗と涙、唾液とカウパーで彼の顔はどろどろになっていた。悪趣味な冗談で男の欲望を掛けられた、きれいな顔の人形みたいだった。ひどく卑猥で、ハイドの欲望をそそる。彼はウィルクスの髪を撫でると目の中を覗きこみ、ささやいた。
「ちんこ、欲しいのか?」
がくがく頭を振ってうなずき、ウィルクスは苦しげに訴える。
「で、でかくて、ふ、ふ、太いの、ほ、欲しい……」
いい子だね。ハイドは赤くただれた耳にささやき、パートナーの体を引っぱり起こしてぎゅっと抱きしめた。ウィルクスは急に顔を歪め、悪い夢から覚めて父親に抱きしめてもらった少年のように、肩に顔を埋めてひっそり泣いた。ハイドは優しく頭を撫でてやる。それでも、肥大したウィルクスの牡は急かすように腹に当たっていた。
ハイドは急に顔を上げ、穏やかにささやいた。
「きみは騎乗位に興味を持っていたね。それでするか?」
ウィルクスは首を強く横に振る。本当は、ハイドもわかっていた。ウィルクスはとても興奮しているとき、バックで責められることを好む。年下の青年の頭を撫でて、ハイドは満足する。快楽と欲望に忠実なウィルクスが可愛くて、彼もおれの同類だとハイドは思った。
強く抱きしめたあと、ウィルクスの体をベッドの上に座らせる。すると彼は自分からよつんばいになり、尻を突き出すように腰を上げた。ハイドは細い腰をがっちりつかみ、片手で自らの怒張を握る。
蕾はさんざん責められて、濡れて光り、すぼまっていた。ハイドは握った頭を押し当てて、力を込めて先端を押し込んだ。
「ん、ん……っ」
ぴくんと跳ね、ウィルクスは思わずきつく締めつけようとする。ハイドは尻を揉み、「緩めて」とささやいた。それから尻を叩く。ウィルクスは必死で体から力を抜こうとする。すると口が自然に開き、舌がはみ出た。ハイドが力を込める。ぐっと亀頭を押し込むと、襞が痙攣して吸いついてきた。
ウィルクスは力を抜き、シーツに顔を埋める。だらしないほど緩んだ顔で次の一撃を待っていた。重く、深く、長い射程でピストンしてくれたら。それを期待して尻を上げ、待つ。しかしハイドは抽送を深くしなかった。先端だけ入れた状態で硬くなった場所を擦る。ウィルクスの体がびくんと跳ねた。
「う、うあ、うそっ」
思わず声を上げたウィルクスを微笑ましく思いながら、ハイドは浅く入れた頭でその場所を擦る。内腿を痙攣させ、ウィルクスは額をシーツに擦りつけた。ぎゅっと口を閉じようとするが、緩んだ口は閉まらない。うめきながら喘ぎを垂れ流し、腰を自分からくねらせる。
「シ、シ、シドっ……」尻を揺らし、彼は這いつくばって必死に訴える。「シドっ、お、おく、奥っ……!」
「なに?」
ハイドは低い声でささやき、埋めた先端でそこを擦る。硬くなっている場所はさらに硬くなり、軽く擦っただけでもウィルクスの意識は飛びそうになった。それでもシーツにしがみつき、必死にねだる。
「奥、おく、ぶち込んで、お願いぃ……っ」
自ら腰を振り、ウィルクスは尻の奥に肉棒を擦りつけようとした。ハイドは彼の好きなようにさせた。粘膜を擦る卑猥な音とともに、肉棒がぐっと深く入ってくる。ウィルクスは喉を反らして恍惚となった。しかしハイドは腰を引いて、体内に埋めた性器を浅い場所まで引きずり戻す。ふたたび手前を擦りあげた。
ウィルクスの体がびくびく跳ねる。彼はすすり泣き、海老のように痙攣しながら咥えた入り口付近の筒をぎゅっと締めた。腰を卑猥に前後させ、刑事のときとはかけ離れた崩れた顔で、誰もいない空間を見上げ泣いた。
「ケツ、く、ください、お、奥、ばこばこして……っ」
ハイドは手前を擦りながら黙っている。ウィルクスはもう一度、もはや言葉にならない声で訴えた。ハイドは汗に濡れた彼の腰をつかみ、少し位置を変えてふたたび急所を突き刺した。ウィルクスの体がのけぞる。
「奥、欲しいのか?」
ウィルクスはがくがくうなずいた。体を支えている腕が震え、もう限界のようだ。
「じゃあ」ハイドは彼の濡れた背にキスし、優しくささやいた。「ぶち込んであげるよ」
だらしなく緩んだウィルクスの顔がさらに緩む。舌が垂れ、彼は前のめりになって尻を震わせ、背を丸めた。
ハイドは無言になる。繋がったまま、背後からパートナーを覗きこんだ。
「エド? ……もしかして、出ちゃった?」
一瞬、沈黙が落ちる。うなだれてベッドにくずおれ、ウィルクスはかすかにこくっとうなずいた。
ハイドの唇に笑みが浮かぶ。据わった目で、「お仕置き」と言った。
そのあと、ウィルクスはハイドにさんざん責められた。音が立つほど激しく抜き差しされ、重くゆっくりしたピストンで奥から手前まで余すところなく突き刺される。直腸が剥がれそうに感じるほど重く、深くえぐられた。怖いほど肥大した牡に敏感な肉の筒が埋め尽くされて、容赦なく犯される。ウィルクスはマゾヒスティックな悦びに震えた。
ハメて、ずこずこして、と我を失くしたウィルクスに必死に訴えられて、ハイドは言われるがままに奥を激しく犯した。だが、ウィルクスは貪欲だった。あそこもして、とねだられ、結局ハイドはウィルクスが愛する急所を重点的に責めた。
そんなにここが好きなら、女の子になっちゃうよ。ハイドがその場所を擦りあげながらささやくと、ウィルクスは「それでもいい」と漏らした。
ハイドはそんな彼を放っておけなかった。いい子だね、とささやいて、あとは黙って手前から硬くなった場所を、そして奥深くまで、ウィルクスが満足するまでじっくり犯した。
彼はドライ・オーガズムを繰り返して体を痙攣させ、シーツにしがみついて悶えた。壊れる寸前まで責められながら、気持ちよさそうに喘ぐ。結局そのあとは射精しないまま、ハイドに愛され疲れてベッドに伸びた。
ハイドもウィルクスの中で二度達し、疲労感とともに自身を引き抜いた。精液が溜まったコンドームを剥がしてビニール袋の中に捨て、ベッドに伏せたウィルクスの濡れた首筋にそっとキスする。
年下のパートナーは目を閉じて、赤い顔のまま胸を上下させていた。
〇
「シド、おれ、わかりました」
枕に頭を沈め、ウィルクスが凛々しい顔でつぶやいた。ハイドは眠りから覚めた目を擦り、「ん?」とささやきかけた。
「なにがわかったんだ?」
低くかすれた声にウィルクスは目を伏せる。大きな手が彼の頭を撫でた。
「眠らなかったのか、エド?」
「はい」
あなたを見てました、とウィルクスは言った。ハイドは微笑む。
「なにに気がついたんだ?」
「おれは淫乱です」
ハイドはおかしそうに笑った。ウィルクスの頭を撫で、浮いた頬骨に手の甲で触れる。刑事は目を伏せていたが、視線を上げてハイドの目を見た。その背後に灯るランプのおぼろげな明かりで、ウィルクスの焦げ茶色の瞳は無数の光を宿して輝いていた。
自分の頬を撫でる手に手を重ね、ウィルクスは怒った顔できっぱり言った。
「シド、もっとちゃんと調教しなくちゃだめですよ」
ハイドは目を丸くする。ウィルクスは彼の手を撫でながら、真剣な顔で続けた。
「おれ、なにひとつ教えこまれてませんよ。女みたいにイくのが好きで、あなたとするセックスが好きだってこと、前から知ってましたから」
「今夜のあれはきみにとっては調教じゃなくて、確認作業だったってことか?」
「そうです」
「やらしいことをしててもまじめだね、きみは。というか」
ハイドはウィルクスの手を握ってちゅっと口づけた。輝く目を見つめ、微笑む。
「やらしいことにすら、まじめで一途になるきみが好きだよ」
ウィルクスはハイドの目から目を逸らさなかったが、かすかに赤くなった。怒った顔で唇を結ぶ。涙が目のふちに浮かんだ。汚らわしい屑だと、ウィルクスが自分を責めることもあった。思春期を迎えてから、たいていそうだった。それでも今夜、眠るハイドの顔を見ながら、このひとはもしかしたら肯定してくれるんじゃないかと思っていた。
そしてその通りになった。
ウィルクスは幸せだった。死ぬならいま死にたいと思った。
ハイドは年下の男の目を見ていた。にじむ涙のせいで、焦げ茶色の瞳はますます光を孕み、ますます美しく見えた。とても眩しかった。
「今度はもっと、ちゃんと調教するね」
ささやくハイドの声に、ウィルクスはかすかにうなずく。
今でさえ、こんなにも美しいんだから。もっときみを泣かせるよとハイドは思った。
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