12 / 49

探偵と刑事とキス△

 思う存分いちゃいちゃした事後、いつもならすぐに眠ってしまうパートナーがベッドに腰を下ろして背中を向けていたので、シドニー・C・ハイドは心配になった。  ハイドより十三歳年下で、同性の結婚相手、エドワード・ウィルクスはベッドにあぐらを組んでうつむいている。長い賢者タイムだなあと思い、ハイドはベッドにねそべって、パートナーの痩せた背中と細い腰を見守っていた。  ウィルクスは急に振り向いた。情事の最中のだらしないほど緩んだ表情は霧散して、普段通りの刑事らしい、凛々しくクールな顔に戻っている。威圧感すら与える美しい顔で、ハイドの薄青い目をじっと見つめた。 「ねえ、シド。おれ、考えたんですけど」  ハイドは思わずどきっとする。この深刻な顔、まさか別れ話だろうか? いろいろと思い当たるふしのある彼は、ベッドの中でわずかに体を縮めた。  ウィルクスは夫の目を見たまま、きっぱり言った。 「あなた、ちんこでかいですよね?」  ハイドの顔がぽかんとする。ウィルクスはかすかに赤くなり、眉を吊り上げて怒った顔になった。それでも「冗談ですよ」と照れて笑ったりはしない。ひたすら真剣な顔だ。ハイドは困惑したまま首をかしげ、なんとなくの笑みを口元に浮かべる。 「うーん、でかいかな? でもまあ、ぼくは体格がいいし」  その言葉のとおり、ハイドは百九十センチに近い長身で、おまけに筋肉質、逞しい体つきをしている。彼はさらに首をかしげた。 「この体のでかさから言って、そこがそうなるのはわりと当然というか……。といっても、比較できるほど知らないよ。ぼくは男のアレ、きみのしか見たことがないし……遺体安置所で遺体のソレを見ることはあるけど」  私立探偵のハイドは穏やかに言った。 「遺体のやつって、たいてい縮こまってるから、サイズがどうかっていうのはわからないんだよね。あと、事件に関係ないならそんなとこに別に興味はないし」 「いや、でかいですよシド。おれもあなた以外の男のアレは見たことないけど」  力説するウィルクスにハイドは困惑し、ベッドから起き上がってパートナーに向き合うと、あぐらを組んだ。ちらっと自分の脚のあいだに目をやり、さらにちらっとウィルクスの脚のあいだを見る。 「うーん、でもきみも別に、ちっちゃいわけじゃないよね? なにが気になるんだ? あっ、もしかして」ハイドは心配そうな顔になった。 「でかくてキツい? 痛いのに我慢してるとか? だったらすまない、むりをさせて。これからのセックス・ライフについてはよく話し合って決め……」 「全然、なんの問題もないですよ」ウィルクスはきっぱり言った。「ちょうどいいです。というか、でかくて太くて、だからみっちり入るというか……。ソレで腹の奥まで割り開かれるのはすっごくきもちいい……」  そう言ってウィルクスは赤くなる。ますます怒った顔で、しかし純度の高い真剣な面持ちのままだ。普段はほとんどものに動じないハイドも少しおろおろしはじめた。 「そうか? ならいいんだが。昔つきあっていた女性がいたんだが、ぼくのアレと彼女のソレのサイズが合わなくてね。結局うまくいかなくて、それもあって別れてしまったんだが……。でも、きみが言ってるのはそういうことじゃないんだね。だったら、どうしたんだ? ぼくのサイズを気にしたりして」  ウィルクスの目が一瞬泳ぐ。しかし、瞳はまたもとに戻ってきた。ハイドを見上げ、確固たる口調で言った。 「あなたのちんこ、でかくて大好きなんです」  ハイドはぽかんとするが、すぐに態勢を立て直しにっこり笑った。 「ありがとう、エド。うれしいよ。きみのお尻のサイズと合ってたんだね。運命の二人だ」  軽口をたたくハイドを無視し、ウィルクスはどこか必死だった。ハイドのほうに手を差し伸べる。ハイドが彼の手を握ると、ウィルクスは視線をちらっとハイドの股間に落とした。そしてかすかに微笑んだが、その口元の緩みは情事の最中のそれだった。  ウィルクスはぶつぶつつぶやく。 「あ、あなたのちんこがすごく好きで、見たり舐めたり触ったり、ぶち込まれたりしてると、とても幸せな気持ちになる」 「それはよかった」 「大好きなんです。匂いを嗅ぐとくらくらするし。形も色もいいかんじにエロくて。いいちんこですよね」 「うん、ありがとうエド。ジゴロとしての自信が持てたよ。でもきみ、なんだかいつものきみと違わないか?」 「ごめんなさい」ウィルクスは眉を吊り上げて鋭い目を細め、両手で口を覆った。 「ちんこちんこ言いすぎですよね」 「いや、それはいいんだけどね」  ハイドはよしよしと年下の青年の頭を撫でる。ウィルクスはうつむいて、薄い胸を上下させていた。ハイドがこめかみに口づけると、ウィルクスはパートナーの背中に腕をまわした。ぎゅっと抱きしめ、耳元でささやいた。 「したあとの、くたっとしてふにゃふにゃになってるのも好きです」 「そうか。ありがとう。そういえばきみ、最近よく終わったあとのぼくのアレ、触ってるな」  ウィルクスはぷるっと震えて引き締まった腰に抱きついた。ハイドも強くウィルクスの背中を抱く。押しつけられた体温と皮膚の滑らかさと骨格の厚みに、ウィルクスは震えて力を抜いた。 「わかったよ、エド」  ハイドが耳元でささやく。 「今、きみが甘えてるんだって」  ウィルクスは彼の耳を噛んだ。ふちを舐め、キスして、唇を押しつけてささやいた。 「あなたのちんこが大好きです。愛してる。でも使い物にならなくなる歳まで、いっしょにいたい」  おれのケツも、そのころにはきっとがばがばでしょうから。そんな卑猥なことを言ったパートナーの見えない顔は、きっと今も真剣なんだろうと後頭部を抱き寄せながらハイドは思った。  彼は黙ってウィルクスの腰を引き寄せた。ウィルクスはハイドの太腿の上に跨って、腹に自分の性器を擦りつける。 「勃っちゃうよ」  低い声でハイドがささやくと、ウィルクスは笑った。 「おれはもう勃ってます」  救いようがないねと言って二人は笑った。それから急に寂しくなった。ウィルクスはハイドを押し倒し、倒れた彼の腰に跨って、年上の男を組み伏せた。  そして二人は黙ってキスをした。

ともだちにシェアしよう!