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探偵と刑事とエムの心・二△

 二人は三階にあるハイドの寝室に入った。ハイドがウィルクスを下ろして、ベッドに座らせようとしたが、彼はすがりつくようにハイドに抱きついてきた。ハイドがバランスを崩してベッドの上に仰向けに倒れると、ウィルクスは彼の上に覆いかぶさる。ベッドが軋んだ。ハイドが背中に腕を回して抱き寄せると、ウィルクスは彼の唇にキスをした。  ウィルクスの口の中はあたたかく、舌は積極的だった。ハイドの舌を求めてすがりついてくる。彼は受けとめて舌を絡め、上唇をそっと噛んだ。ウィルクスの勢いと焦燥を受け入れて、安心させるようにキスを深める。  とはいえ、ウィルクスが息継ぎに唇を離すとき、かすかに漏らす吐息や声、くちゅっという水音や絡みあう視線がハイドを激しく煽った。 「ん……んっ」  小さく息を漏らしながら貪りついてくるウィルクスが可愛らしく、発情期の犬のように体をすり寄せてくるのを見ていると、ハイドは激しい興奮を覚えた。首に腕を回して抱き寄せ、舌を深く差しこむ。ウィルクスは震えた。互いの唾液が混ざりあって、淫靡な甘さを感じる。ハイドの舌に自分の舌先や唇が触れあうたび、ウィルクスの下腹部はぐつぐつと沸騰して脈打った。 「シド、お、おれの……」繰り返すキスの合間に夢中でささやく。 「おれの中、い、いっぱいに、してください……っ」  いいよ、とハイドが言うと、ウィルクスは真っ赤なとろけた顔で笑った。ハイドの腰の上に跨って、伸ばした手で愛する人の脚のあいだに触れる。手のひらを押し返す硬さに、ウィルクスは全身にぞくぞくと興奮を感じた。熱い手をそこに擦りつけて、必死でささやく。 「く、く、口で、して、いいですか?」  もう一度、ハイドは「いいよ」と言った。彼が体を起こすとウィルクスは床にすべり落ちた。ハイドはベッドのふちに腰を下ろすと同時に、ナイトテーブルの引出しを開けてコンドームの箱を取りだした。  そのあいだに、ウィルクスは震える指でハイドのパンツのボタンを外し、ジッパーを下ろしている。ボクサーパンツは下から押しあげられていた。ウィルクスは泣きそうな顔で微笑む。 「シド、こんなに勃起してる……」  うっとりした目でそう言って、ハイドが腰を上げてくれたので少しだけパンツと下着を下げさせてもらった。  目の前でそそり勃つ肉塊にウィルクスが顔をすり寄せ、尻尾を振っているあいだに、ハイドはコンドームの袋を破いて中身を取りだし、それを昂ぶっている自分自身にかぶせた。甘い匂いが漂う。ウィルクスは顔を上げて、欲情で朦朧とした目でもの問いたげにハイドの顔を見つめた。  彼は穏やかにささやく。 「口でするときも、ゴムをつけてたほうがいいんだよ」 「え……?」  ハイドの言葉にウィルクスは明らかにがっかりしていた。匂いを嗅ぐように鼻先をすり寄せると、甘い匂いがまた漂う。ハイドはパートナーの頭を撫でて、幼い少年をあやすようにささやいた。 「きみはゴムの味とにおいがだめだったな。だから、これを買ってみたよ。チョコレートの味がついてるんだって。……すごく甘ったるい匂いだけど、これで少しは大丈夫そうか?」  ウィルクスはぼんやりした目で目の前の肉棒を見ていたが、しゅんとした声で「シドのがいいです」と言った。ハイドの心はぐらりと揺れる。ぼくだって、もちろん生でしてほしいよ、と思う。しかし、それではいけないのだ。  なぜなら先日、田舎で外科医をしているウィルクスの父親から手紙が届いたから。きれいなやや角ばった文字で便箋に綴られていた内容は、「息子は元気にしていますか」ではなく、「あなたは良識がある方とお見受けしますが、エドワードはおそらく経験不足で知識も足りないだろうから」、「口淫の際も病気の予防のためにコンドームを着けるようにしてください」だった。  お義父さんに手紙で釘を刺されたら、それを無視するわけにはいかない、とハイドは使命感を抱いた。だからこうやって、味付きのコンドームを大きめのドラッグストアで買ってきたのである。  ハイドは手を差し伸べて、ウィルクスの顎を親指で擦った。唾液が垂れている。彼はまだ承諾できかねていた。 「シドのがいい……」とつぶやく。 「だって、病気になると困るだろう?」ハイドは言い聞かせるように根気強く、優しくささやく。「それに、精液を飲んだらときどき腹が痛くなるって前に言ってたじゃないか。そうなったらしんどいだろう? だから、ゴムをつけてしようね」 「だって……」 「ん?」 「だって、け、ケツにももらえないのに、口でも、だめって……さ、さびしいです……」  ハイドは着ている茶色いセーターの胸元をぎゅっと握った。体の奥底から身をもたげる「悪い男」の自分をなんとか抑える。今すぐこの可愛い子を犯したい。欲望が暴走して、体を突き破ってしまいそうだった。ハイドの薄青い目は欲情で据わった。  しかし、両手をぎゅっと握って堪える。ウィルクスの頭をあやすように撫でて、「いい子だから」とささやいた。 「きみはいい子だから、我慢できるね?」 「い、いい子、やめます……」 「そう? やめてもいいよ。いい子じゃなくなっても、きみのこと好きだからね」  ウィルクスは真っ赤な顔でぷるっと震えた。震える口元にだらしない笑みが浮かぶ。 「我慢しようね」  耳元でハイドに低い声でささやかれて、ウィルクスはこくっとうなずいた。  昂ぶっているハイドの牡に唇を寄せ、ちゅっと音を立ててキスしたあと竿をぺろっと舐める。眉間に皺を寄せたウィルクスに、ハイドは心配そうな顔になった。 「やっぱりまずいかな」  ウィルクスは黙っていたが、もう一度同じ場所をぺろっと舐めた。それから鼻先をすり寄せてにおいを嗅ぐと、「大丈夫」と微笑んだ。それから口を開け、ハイドの頭を含む。裏筋を舌で押さえると、口の中ではむはむと甘噛みした。ハイドの顔が真顔になり、牡がさらに力を逞しくする。ウィルクスはうれしそうにとろけた目をして、肥え太った頭を果敢に口の奥に入れた。  男根はさらに芯を持ち、逞しく膨らんで反りかえる。 「んぐっ」  亀頭が喉を刺し、ウィルクスはうめいて涙を浮かべる。鼻水が垂れたのでハイドが拭いてやった。ウィルクスは額に汗を浮かべ、胸を上下させる。頭を軽く吸ったあと、いったん口を離して根元に舌を這わせた。  ハイドは彼の右手に自分の左手を重ねた。それから覆いかぶさるように体をかがめて、年下のパートナーの耳元でささやいた。 「きみは淫乱だからな、エド」  ウィルクスは太い竿を静かに舐めながら震えた。ハイドは手を重ねたまま、さらにささやく。 「淫乱でスキモノだから、いつもフェラしながら自分でしてるね。それに、堪え性がないから。すぐイってしまう。そうならないように、こっちの手はぼくのに添えて」  ハイドはパートナーの手をとると、その手を自分の性器に触れさせた。それから、右手でウィルクスの左手をぎゅっと握る。 「こっちは、繋いでいようね」  そういって指を絡めると、ウィルクスもしっかり絡めて、握り返してきた。ハイドの肉体も心も鮮やかに、欲情と幸福に染まった。それはウィルクスも同じだった。  二人の手は熱く、同じように汗ばんでいた。手を握りあいながら二人は交わりを深めていく。ハイドはむせ返るほど高まる動悸のなかで、ウィルクスの顔を食い入るように見つめていた。  ペニスに貪りつき、柔らかく甘噛みし、ぱんぱんに張った袋をぺろぺろ舐めている。やはりコンドームの味が苦手なのか、今回は竿の根元と袋をよく愛撫している。それでも、頑張ってまんべんなく口に入れたり、舐めようとしていた。  なんて健気なんだ、と思うとハイドの胸は熱くなった。そのうえ、自らの牡も力強く反応する。繋いだ手をぎゅっと握りながら、もう片手でウィルクスの頭を撫で、貪りつくパートナーの淫らな顔を見ていた。ふだんのクールで凛々しい相貌は崩れ去り、性欲に忠実になったその顔は卑猥に緩んでいる。唾液がウィルクスの口にべたべたと糸を引いていた。コンドームの内側でハイド自身も濡れている。  彼がつむじにキスすると、ウィルクスは「んん……」と甘いうめきを漏らした。 「エドはほんとに助平だな」  ハイドはささやいて、ウィルクスの耳を触る。今にも燃えだしそうなほど真っ赤だ。首筋も赤く、顔もまた病的に赤い。「ん……」とうめいて喉を鳴らすと、ウィルクスはゴムに包まれた亀頭を口に含み、喉へ押しこんだ。  そろそろやばい、とハイドは思う。出てしまってはいけないので、ウィルクスの手をぎゅっと握って、「後ろに入れるね」と伝えようとした。  そのとき、喉の奥まで男根を押しこんでいたウィルクスの動きが止まった。彼は口からずるりとペニスを吐き出すと、真っ赤になったままうなだれていた。ハイドは心配になる。 「エド? 大丈夫か?」  ウィルクスは顔を上げてぷるっと震えた。 「シ、シド、い……イっちゃいそう……」 「え」  ハイドは思わずウィルクスの手を見る。右手はしっかりハイドの性器に添えられ、もう片手はホールド状態。ウィルクスはがくがく震えはじめた。怯えた子どものように涙がこぼれる。 「い、イっちゃいそうです……っ」 「……相変わらず淫乱で助平な体してるな、エドは」  ウィルクスはさらに震えた。うなだれて黙っている。ハイドがちらりと見ると、たしかにパートナーのスウェットパンツは「中になにか入れてるのか?」というほど昂ぶって、布がテントを張っていた。 「よし。じゃあ」ハイドは茶色の短髪を撫で、据わった目で優しく言った。 「一度、すっきりしようか。きみも、出しておこうね」  ウィルクスはがくがくうなずいて、待ち焦がれたようにハイドのものをふたたび口に含んだ。じゅぽじゅぽと卑猥な音を立てて男根を咥え、抜き差しし、先端をしゃぶる。右手はパートナーのペニスに添え、もう片手はしっかり握られたままだ。  血管が浮きあがり、グロテスクに勃起したものをおいしそうにしゃぶる。その顔を見ていると、ハイドはいつも、おれのアレはそんなにうまいのだろうかと気になってしまう。彼だってウィルクスの性器を口で愛撫した経験はあるが(もっというと、女性器での経験はさらにある)、「うまい」というのとはまた違うと思っている。甘くないし、独特の湿ったにおいがするし(臭くはないけれど)。……たしかに、そそるにおいではあると思ってはいるが。  それでも、ハイドの性器に対するウィルクスの執着を見ていると、まるで高級なチョコレート、あるいは血のしたたるステーキでも食べているみたいだった。  ウィルクスの舌がハイドの牡に絡みついた。  ハイドは体に力を入れ、前かがみになる。熱く濡れた口でもみくちゃにされて、快感が性器でスパークする。ウィルクスの手をぎゅっと握り、「出るよ」とささやいた。  ウィルクスはハイドの頭を口に押しこんで、頬の肉でぎゅっと圧迫する。喉を鳴らして吸いつくと、ハイドはうめきを押し殺し、コンドームの中で射精した。ウィルクスは目を閉じ、涙がぽろっとこぼれた。びくびく跳ねて腰を反らし、痙攣する。それから、力を失いつつある男根を口の中から吐きだした。  大量の唾液が垂れ、床に落ちる。ウィルクスは胸を上下させながら朦朧とした目を伏せていたが、急にがっくりとうなだれた。 「おれ……さ、触ってないのに、い、イって……!」  やっぱり変態だ、とショックを受け、しょんぼりしているパートナーを見て、熱と興奮と欲情からいったん醒めはじめたハイドもまた、しょんぼりしてしまった。ウィルクスの頭を撫で、ささやく。 「すまない、エド。いっぱいいじめてしまったな。ごめんね」  ウィルクスはうなだれたまま黙っていたが、ふいに顔を上げた。涙と唾液でべたべたな顔でハイドを見上げて、ぼんやりした目でつぶやいた。 「シド、おれ……疲れました。いっしょに寝たい」  うん、とハイドは答えた。 「いっしょに寝よう」  そう言って繋いだ手を離す。二人とも、手のひらは汗でべとべとだった。ハイドはウィルクスの体に腕を回して抱え起こし、身を投げ出すように二人でベッドに横になった。  抱きあって、情事のあとのにおいを嗅ぐ。汗と、精液と、甘く懐かしいにおいがした。 「きみが変態でも、変態じゃなくっても、大好きだよ。エド」  頭を撫でながらハイドが言うと、ウィルクスは彼の胸に顔を寄せて「はい」と答えた。  本当にそうなんだとウィルクスは思った。この瞬間、彼はそのことを信じた。  頭を寄せあって、二人は眠りに落ちた。

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