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探偵と刑事と初めての夜・二△

 ハイドとつきあうようになって初めて、ウィルクスは男とキスをした。バイセクシャルの彼は、しかしハイドとつきあうまでは、男とはつきあってこなかった。女とキスするときは相手のことを気にかけた。欲望に流され、欲情一色に染まるということはなかった。  それなのに今、ウィルクスは欲情で全身染められていた。夢中でキスを繰り返し、乳首をいじられるたび、もっと触ってほしいと思う。もっといやらしいことをしてほしい。切なくなるほどそう望んだ。  ハイドのもう片手がぎゅっとウィルクスの手を握る。ハイドの手は燃えるように熱かった。ウィルクスは握り返し、覆いかぶさってくるハイドの体に腕を回す。抱き寄せたら、ハイドは唇を離した。  唾液が細く糸を引く。ハイドは唇を舐めて、恋人の首筋に顔をうずめた。ウィルクスはくすぐったく、興奮を覚えてハイドを抱きしめる。  酔ってるんだな、とウィルクスは思った。その通りで、ハイドは性急だった。恋人のデニムパンツのボタンを開き、ジッパーを下ろす。  ウィルクスは動揺した。首筋まで赤くなる。すでに身をもたげて、下着の中心が張っているのだ。軽蔑される、ととっさに思った。気持ち悪いと思われる。怖くなって、目に涙が滲む。拒もうとした手をハイドにつかまれた。  耳にキスし、ハイドがささやいた。 「だめか?」  鼓動が高鳴る。緊張と恥ずかしさと期待で震え、ウィルクスは恋人の逞しい体をぎゅっと抱きしめた。 「い……いいですよ……」  そうささやき返すと、ハイドはウィルクスの耳を軽く噛んだ。それから動きを止める。抱きしめたまま低い声で、「お尻の穴を使う方法もあるけど」と言った。  直球の一言に、ウィルクスの心臓が音高く跳ねる。ハイドの顔が見られなくなり、目を逸らした。  そう、考えていた。もしそんなことになったらどうしようって。でも、急にはむりだし、そもそも……。  ウィルクスの考えを読むように、ハイドは彼の頭を撫でてささやいた。 「急にはむりだと思うんだ。それに性欲を満たして、きみとさらに親密になるために、必ずしも挿入は必要じゃないと思う。どっちが男役でどっちが女役か、とか、考えなくちゃいけないと思うし」 「お、おれ、女役でもいいですよ」  ウィルクスは勇気をふりしぼり、抱きしめられたままささやいた。 「あ、あなたは根がヘテロだし、入れられるより入れるほうがいいんじゃ……」 「うーん、気持ち的にはね。でも、そういうことはよく話し合わないと」  そこでハイドは顔を上げ、上気した顔でウィルクスを見て、へらっと笑った。 「なんにせよ、むりはよくないよ。いっしょに、ちょっとずつ進もうね。ぼくも勉強するから」  はい、と涙ぐみながらウィルクスはうなずく。胸のつかえがとれて、体が軽くなった。そのぶん、下半身は正直に反応している。うるんだハイドの薄青い目を見つめて、「いっしょに、しましょう」と誘った。  それからはソファで服を着たまま、お互い手で相手を刺激して快感を深めた。  ハイドがウィルクスの反応した男性器を見て、あっさり「きみも男の子だね」と受け入れたのに対し、ウィルクスは味わった動揺と衝撃と興奮をどうしていいのかわからなかった。  なんとなく、「ハイドさんの、でかそう……」と思っていたのだが、興奮して大きくなったそれは想像以上だった。もし挿入になったら、ほんとにおれの中に入るのか。ちょっと心配になるが、大きな手で分身を柔らかく握られて、ひとまずそんな心配も霧散した。  おれは男のくせにペニスが好きなんだな。しらふのときにそう思ったらとても耐えられないだろうとウィルクスは思うが、今、彼は酔っているうえ性欲で頭がいっぱいだ。落ち込むことはなく、ハイドの分身に手を添えて上下に動かす。キスをしながらそうやって責めると、ハイドも同じようにしてくれる。 「っは……ん……、シドの、ギンギンになってる……」  キスの合間にうっとりしながらそうつぶやいて、ウィルクスは夢中でハイドのものを擦る。手の中で熱く燃え、硬く勃起したそれはグロテスクでさえあった。頭から吐き出す先走りで手の中が濡れる。  ハイドが手を伸ばして、恋人の牡を包みこんだ。ウィルクスの性器を自らの怒張に擦りつける。ウィルクスの背に震えが走る。気持ちよすぎて膝が震えてきた。 「きみのも、大きくなってるよ」  ハイドはささやくと大きな手に二本の男根を包み、同時に擦りあげる。赤くなった顔でくすっと笑った。 「腰、動いちゃうの、可愛いな」  そう言われてウィルクスは我に返る。ハイドの手と彼の性器に自らの性器を擦りつけるように、腰を前後させていた。ウィルクスは真っ赤になるが、自分では止めることができない。  それどころか唇を求められて、夢中でキスをする。そのため、ストッパーがなくなってよけいに止まらない。腰を振りながらハイドに貪りついた。  ウィルクスもハイドの手に手を重ね、互いのものを擦りつけあう。燃えて硬く、吐き出す蜜で互いに濡れる。  男同士なのに。この人は、男にはなんの興味もないはずなのに。硬くなっている恋人がうれしくて、ウィルクスは涙ぐみながら手を動かし、腰を擦りつけた。  今は、おれのものなんだ。  互いに吐精し、汗ばんだ体とほてった顔で抱きあった。急速に欲情から覚め、ウィルクスは寂しさを覚えた。男を好きになってしまう自分を未だに許しきれず、だめな人間だと頑なに自らを責めてしまう。それを振り払うように、冗談めかした口調でささやく。 「……せっかくの初めてだから、あなたの裸、ちゃんと見たかったな」 「たしかに」  ハイドは息をつきながらそう言って、ウィルクスの体を抱きしめたまま、まじめな顔で言った。 「じゃあ、いっしょにシャワーしよう」 「……また興奮しそうなんですけど」 「そのときは二回戦」 「シド、もしかして助平ですか?」  ハイドは悪びれず「うん」と言って、それからまじまじと恋人を見た。 「でも、きみも淫乱の素質があると思うんだが」  ないですよ、とウィルクスは怒った顔になる。真っ赤になったまま年上の男の頬をつねった。  ハイドの洞察が証明されるのは、もう少し先の話だ。

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