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探偵と刑事と大事なもの・二△
ウィルクスは黙って自分の脚のあいだを見る。中途半端に更地になったそこを見て、痛みを覚えるほど耳が真っ赤になった。あわてて首を横に振る。あまりにも不格好で、情けない気分になる。ウィルクスはもうそこを見ないようにした。ねだるように、「キスして」と訴える。
ハイドは黙って脚のあいだから身を起こし、ウィルクスの唇に口づけた。軽く触れるだけのものだったが、ウィルクスの心は落ち着く。
「目、閉じてたらいいよ」
ハイドが耳元で、低い声でささやいた。ウィルクスはぎゅっと目を閉じる。ハイドはふたたび脚のあいだに戻った。
ウィルクスは脚を開いて、両手を顔に当ててじっとしている。剃刀の刃が肌をすべる、その感触を痛いほど感じた。全身がかっと熱くなるが、もぞもぞするわけにもいかず(そうするたび、ハイドに「危ないよ、じっとして」と言われる)、まるで縛られたようにベッドに腰を下ろしている。目を閉じて、自分の上擦った呼吸の音と剃刀が肌をすべる音に責められていた。
そのとき、ハイドに軽く膝をたたかれた。
「エド」脚のあいだから声がする。
「ギンギンに勃ってるから剃りにくいんだが」
ウィルクスの顔がかっと赤くなる。勢いよく両手を下ろし、潤んだ目で両脚のあいだを見た。呆然としてつぶやく。
「うあ……、うそ……」
脚のあいだは昂ぶって身をもたげ、大きくなった頭にはじわっと露が滲んでいた。勃起した自分の分身を見て、ウィルクスは思わず両手でそれを隠した。ハイドの手がそっとその手に重なる。
「可愛いよ、エド」
優しいその声に、ウィルクスは慰められるよりも恥ずかしかった。現実に向きあうことが怖くて、手で隠したまま目をぎゅっと閉じる。しかし、ハイドの顔が見えないと不安だった。目を開けてみると、夫は脚のあいだから彼を見上げている。
「興奮したんだね」と言われて、ウィルクスは首を横に振った。
「ち、ちがう、は、は、恥ずかしい、だ、だけです……っ」
「興奮はしてないのか?」
はい、と答えたが、ウィルクスには自信がなかった。ハイドはじっと彼の目を見つめる。
「こんなに勃起してるのに?」
手の甲を押されて、ウィルクスはぶるっと震えた。手のひらが性器の頭にあたり、痺れるような快感が駆け巡る。腰がびくっと跳ねて、彼はハイドにすがりついた。
ハイドは容赦がなかった。
「乳首も勃起してるし」
そう指摘すると、ウィルクスは両手でカットソーの上から胸を押さえる。反応している下半身がむき出しになった。
その姿に、ハイドはかすかに口角を上げる。ウィルクスはふたたび脚のあいだを手で隠した。恥辱に震えながら、どうしようもなくなり訴える。
「う……、シ、シド……、ち、ちんこ、痛い……っ」
思わず弱音を吐くと、ハイドは心配そうな顔になった。
「切ってしまったか?」
ウィルクルはふるふると首を横に振った。
「た、勃っちゃって、い、い、痛いです……」
必死で訴える。もしかしたら、助けてくれるんじゃないか。ウィルクスは期待していた。このまま押し倒されて、熱い手で扱いてくれたら。熱病に浮かされたようにそう切望する。それでも、ハイドはかすかに微笑んだだけだった。
「もうちょっとだから、全部剃るね。危ないから、動いちゃだめだよ」
そう言って体を起こし、ウィルクスの頭を撫でる。ハイドは震える彼の唇にちゅっと口づけた。ウィルクスは目を伏せてじっとしていた。長い睫毛の奥の呆然とした目を見たとき、ハイドはこの日初めて激しい興奮を覚えた。
勃起した根元を傷つけないように、慎重に陰毛を剃る。しょりしょりと音がする。ウィルクスは両手で顔を覆って、不安定な呼吸を繰り返している。過呼吸にならないか注意しながら、ハイドは剃毛を続けた。
「つるつるになると、子どものおちんちんみたいになるな」
ハイドがつぶやくと、ウィルクスは「ひ」と言ってますます両手に顔をうずめた。
「できた」
ほっと息をつくその声を聞いて、ウィルクスはこわごわ両手から顔をあげる。ふだんは鋭い焦げ茶色の目に涙がにじんでいる。冬のあいだに白くなった首筋は赤く染まり、怯えた目で自分の脚のあいだを見た。
そこはつるつるになっていて、本当に子どもの脚のあいだを思わせる。それなのに、限界まで勃起した牡は未熟さ、未経験、無垢とは正反対だ。赤くなって弾けそうなほど膨らんだそれを二人でいっしょに眺めた。ひどく卑猥だった。
ハイドはちらりと顔を上げて、見下ろすウィルクスの顔を見る。いつも騎士のように凛々しい顔は、今は淫らに弛緩していた。
その顔を「もうどうにでもしてください」という意味だとハイドは受けとる。毛が絡みつく剃刀をティッシュペーパーできれいにしたあと、手のひらに保湿クリームをとって、つるつるになった脚のあいだに塗った。熱い手が敏感さを増した肌に触れて、ウィルクスの腰が跳ねた。そのまま手をすべらせて、昂ぶったものを握ってほしいと思う。しかし、ハイドはただ剃り跡にクリームを塗るだけだ。
「痛くないか? ひりひりしない?」
ウィルクスがこくっとうなずくと、ハイドは「よかった」とつぶやいた。
「エドのおちんちん、きれいで可愛い。これでよく見えるよ」
そう言ったハイドの目は、このときは明らかに好色な男のそれだった。舐めるように眺め、ぱんぱんになった袋を指でつつく。ウィルクスは身じろぎして、喉から弱々しく「くぅん」という鳴き声が漏れた。
ハイドは彼を見上げると、言った。
「じゃあ、撮るよ」
ウィルクスの体がびくっと跳ねる。
「と、撮る……?」
「そう。せっかく剃ったから、記念に」
そう言ってパンツの尻ポケットからスマートフォンをとりだしたハイドから、ウィルクスは逃れようとする。しかし脚のあいだに大柄な体をつっこまれているため、うまくいかない。気がつけばカメラのレンズが自分のことを見つめていた。
「や、やめ……」
力なくうめき、真っ赤になって涙を浮かべるウィルクスを蹂躙するように、カメラが彼に合わせて動く。剃られたつるつるの股間を剥きだしにして興奮している自分。それを見せつけられて、ウィルクスはぴくぴく震えた。ハイドがささやく。
「大丈夫だよ、エド。ぼくしか見ないから」
「いやだ、でも、や、やだ……っ」
そう言うウィルクスの脚のあいだで、ぷっくりとした球になって溜まっていた先走りがとろりと垂れ落ちた。寝室に二人きりなのに、公衆の面前で犯されているように感じ、興奮が全身を駆け巡る。ハイドの手はどこにも触れていない。それなのに、すでにまぐわり、さらに二度目を迎えたように感じる。
ウィルクスは両手で顔を覆い、カメラの前で「お、おれ……っ」と震える声で泣いた。昂ぶった分身がずきんと痛む。ペニスに熱が溜まって苦しい。脚を開いたまま爪先をぎゅっと丸めた。怯えて口走る。
「ど、どうしよう、で、出ちゃう……っ」
「出ても大丈夫だよ、エド」
ウィルクスは首を強く横に振った。それでも脚を開いたままで、されるがままに露わな姿をさらしている。ハイドはスマートフォンの向こうから、「愛してるよ」と言った。
ウィルクスは両手に顔をうずめたまま、心が安らぐのを感じた。その言葉だけで全身が蕩ける。顔を隠したまま、その口元にだらしない笑みが浮かんだ。
「あ……、おれも、あ、あいしてます」
「ありがとう。うれしいよ。ぼくのものになってくれて」
おれはあなたのものです、とウィルクスは言った。羞恥に溺れる熱い海の中から光が射し、彼の全身を染めていく。
「あなたのものです。す、すきに、してください……」
ありがとう、とハイドは言った。顔を覆うウィルクスの手首を握る。手を下ろした彼の唇にハイドはそっと口づけた。
ハイドの唇は熱かった。ウィルクスがすがりつくと、ハイドは唇を離して彼の首筋を強く噛んだ。
「いた……っ!」
びくんと跳ねて背を反らすウィルクスに、ハイドは微笑みかける。
「きみは痛いほうが感じるんだったね」
ウィルクスはゆるんだ顔で目の前に立つ男を見上げる。
はい、と答えることしか、ウィルクスにはできなかった。
○
それからふたたび毛が生えそろうまで、ウィルクスは無防備なまま暮らした。
しっかり服を着ているにもかかわらず、周囲の人から丸見えになっている気がして、通勤中や仕事中、恥ずかしかった。そのうえ何度もじっとりと濡れてしまい、トイレの個室で下着についたシミを見て落ち込む。おれは変態だと思う。
それでも、寝室でハイドに「可愛いよ」と褒められると、そんな恥ずかしい姿をさらしているのになんだか安心してしまう。
いつのまにか、ハイドはウィルクスのすべてになっていた。
少しすると毛は伸びてきたが、下着に当たり、ちくちくして痛い。ウィルクスがそうハイドに訴えると、夫は飄々と「また剃るよ」と言った。だからウィルクスは我慢することに決めた。
更地のウィルクスの写真及び動画は、ハイドが大事に保存している。
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