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探偵と刑事とおやすみ・三△
カーテンを開けたまま、午後四時過ぎの柔らかな青い空と流れる雲と、かすみに包まれたような淡い海の前で、二人は交わりを深くしていった。ウィルクスは枕に顔を押しつけて、背後から責められるままに受け入れ、喘いでいる。
サザーランド・ホテルに着き、初めて二人でベッドに入ったとき、ウィルクスは声を我慢していた。周りの人間に聞かれたら恥ずかしいと言って、ぐちゃぐちゃになった泣き顔で枕を噛んでいた。それでも、ハイドは何度も「大丈夫だよ」と言い聞かせた。今は泊り客も少ないし、ドアに耳を押しつけるような従業員は、ここにはいないからと。
それでもウィルクスは怖かったし、恥ずかしかった。しかしそれでも、回を重ねるごとに大胆になっていく。というよりも、くたくたになって、それでもなお肉体を重ねるにつれて、怯えや警戒心や羞恥心がまともな働きをしないようになっていった。ハイドに調教されたとおり、声を我慢せず喘ぎを垂れ流すようになる。
このときもそうなった。ウィルクスはバックで突きあげられ、尻を高く掲げて打ちつけられながらひいひい鳴いた。声がどんどん大きくなっていく。ピストンはゆっくりで重く、射程は長い。肥え太った亀頭が最奥を掘り、長く太い竿が彼の尻の中にみっちりはまって、肉筒の内側をどっぷりと擦りあげる。その大きさと太さに、突きあげられるウィルクスは必死で自分の口を押えていた。喉から男根が出そうに錯覚してしまうのだ。
必死で口を押さえながら、「うっうっ」という声が漏れる。もっとハメてと言って泣き、ハイドが言う通りにしてくれると全身で性悦を貪りよがり狂った。肉体は素直で従順で、飢えていた。三日ずっとこうなのに、するたびにさらに飢える。深みにはまって、ウィルクスは抜け出せなかった。それで幸せだった。体の中がすっかりハイドの形になる。
客室係がまだ一度も取り換えていないぐしゃぐしゃになったシーツの上で、ウィルクスは悶えた。ばかになっちゃうと泣きながら、ベッドの中で尻を突き出す。全身がだるいのに、股間ははちきれそうになっている。半ば勃ち、半ば萎え、とろとろ吐き出される愛液が糸を引いてシーツと繋がっていた。
ハイドは馬に対してするようにウィルクスの尻を平手で叩きながら、容赦なくがつがつと奥を掘る。頭がぐっと深くに届いた。そのたび直腸がきゅっと吸いついて、その吸引力と弾力に、ハイドは荒い息をつきながら飢えた目になる。今ではすっかり荒々しくなり、じっくりと年下の男を犯し尽くした。
中がぎゅっと締まる。しっかり咥えた肉筒の奥で、ハイドの怒張が痙攣しはじめた。ウィルクスは泣きながらさらに締める。ベッドの中で背をのけぞらせ、海老のように跳ねて、言葉にならない声を漏らした。
深く奥を抉られたとき、ウィルクスは一瞬意識を飛ばしていた。かろうじて体を支えていた腕が力を失くし、突きあげられながら腰を突き出した体勢で強烈なオーガズムを感じた。絶頂で背を反らせ、痙攣しながら直腸を締める。
「ああー……っ……」
弱々しい声を漏らし、勢いよく吐精しながら果てた。頭がくらくらして、動悸の激しさにしばらく気を失っていた。
○
腹上死したかと思った、とハイドは言った。ウィルクスは目を開ける。
まだ動悸がして、首筋まで上気していた。それでも涙で濡れた顔を上げると、ハイドの裸の腕の中にいた。ヘッドボードに背中を押しつけ、脚を投げだして座っているハイドに抱かれ、ウィルクスは恥ずかしさのあまり彼にしがみつく。ハイドは彼の頭を撫でて、「しすぎかな」と言った。
ウィルクスは顔を伏せたまま赤くなり、怒った表情で言った。
「ようやくその事実に思い至ってくれたんですね」
ハイドが強く抱きしめる。
全身がだるく、体に力が入らない。ウィルクスは抱きしめられてぐったりしていた。その体勢でいると、体が楽だと気がつく。自分では意識しないまま、彼はハイドに甘えた。肩に頭を乗せ、撫でられるがままに力を抜く。黙ってじっとしていると、ウィルクスにはパートナーの息遣いがわかった。厚い胸が上下していた。
ハイドにペリエの残りを飲ませてもらう。ウィルクスは喉を鳴らして飲むと、抱き寄せられたままかすれた声でつぶやいた。
「今夜はおれもレストラン、行きますから」
ああ、行こうねとハイドは言った。彼は今もウィルクスの髪を撫でていた。
「何時ですか?」
「五時四十五分ちょっと過ぎ」
「三時すぎに食べたのに、もう腹が減ってる」
「いっぱい励んだからね」
ウィルクスは年上の男を睨んだ。ハイドは微笑み、頭をよしよしと撫でて言った。
「今日、初めてわかった。自分がまだまだ使い物になるってことに」
「当たり前ですよ。おれを置いて枯れたら許しませんから」
仏頂面でそう言って、ウィルクスはパートナーの首筋に顔を埋めた。大きな手が彼を抱き寄せる。疲れ果てているからだろうか、ウィルクスの心はとても穏やかだった。何度も死んで、生き返った気分だった。
ウィルクスの痩せた体を抱き寄せたまま、ハイドは言った。
「明日もきっとこうだよ」
「……せっかくブライトンに来たのに、ベッドにしかいないんですけど」
「じゃあ、気分を変えて海辺の岩陰でどうだ?」
「絶対寒いですよ。あと、青姦はしませんからね。破廉恥です」
「そうだな。エアコンがんがん効かせてるベッドがやっぱり最高だよ。あと、きみの助平な顔と体を他人に見せたくない」
ウィルクスはなにも言わなかった。ハイドの首筋から顔を上げて、窓辺のほうを向いた。
そろそろ夕暮れだった。沈みかけた太陽を映して、穏やかな海は銀色に輝いている。空は紫と黄緑に変わって、ピンクの雲が赤い太陽のまわりで風にたなびいている。海は寄せては返し、まるで薄い絹のようだ。白い波頭が泡立って、紫に輝いていた。
幸せですとウィルクスが言った。ぼくもだよ、とハイドが答える。二人は抱きあっていた。離れることを恐れるように、固く互いの手を握りしめていた。
○
翌朝、ウィルクスは職場からの電話で叩き起こされた。行かなくちゃ、と寝癖のついた髪を撫でつけながら言う彼に、ハイドは「ぼくもきみと帰る」と言う。ウィルクスは疲れた、しかし清々しい顔で笑った。
「でも、あなたはここでゆっくりしてたらいい。今日まで休みって決めてたんでしょう?」
「いいんだ。きみが大変なとき、そばで支えたい。そう思って結婚したんだから」
「シド」とつぶやいて、ウィルクスは目を細めた。裸の体でベッドから降りながら、伴侶の目を見つめる。
「夢を見させてくれてありがとう。最高の休暇でした」
ウィルクスは言った。
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