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それから、和孝は月に一、二度此の見世を訪れるようになった。
連れが撫子を好いたらしい。
撫子も「漸く身請け先が見つかるかも知れない!梔子、引き続き協力してよね」と嬉しげだった。
「よぉ、梔子」
「ようこそおいでくんなました、清水様」
「ははっ、相変わらず硬いなぁ。もう何度目だ」
「クスッ、これが私共の挨拶ですので」
今宵も、和孝はお酌させる為だけに私を買う。
私に幾らかかるのか自分でも知らぬが、決して安くはないことだけは分かる。
竹田様と同じくらいか…それより上か……
(誠、立派になられた)
まるで天と地の差だな。
「さて、今宵は何の話に付き合って貰おうか」
「ふふふ、何なりと」
もう沢山の言葉を交わし合っているが、和孝との過去については一切口に出してない。
和孝も、私との過去については何も話をしてこない。
それで…よい。
(私などとは、もう関わらぬ方がよいだろう)
こんな陰間と仲があると知れれば、きっと和孝の地位に泥を塗る羽目になる。
もう、良いのだ。
今こうして話ができている…それだけで、まるで夢のよう。
(例え、あの頃のように伊都と呼んでくれずとも)
私に、気づいておらずとも。
もうすぐであろう私の身請け前に仏様がくれた、細やかなひと時。
もう少しだけ隣に居させてくれぬだろうかと…ただそれだけを考えながら、今宵もそっとその肩に寄り添った。
ーーそれを、部屋の様子が静かだと覗いた部屋子に見られているとも知らずに。
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