9 / 11

9

【side 伊都】 (ばちが、当たってしまったのだ) 燃え盛る炎を一人ぼぉっと見つめる。 きっと私が欲深いが故に、仏様がお叱りになったのだろう。 『竹田様!?』 『梔子…お前は私の物だ!それなのに、お前はあの男と……!私ではあのお方には敵わん!だが、お前を渡したくはない… だから梔子……此処で、共に…』 『っ、竹田様!』 それからあっという間に、竹田様の持っていた火が見世全体に燃え移った。 撫子たちは何とか逃げられ、入ってきた役人に取り押さえられた竹田様も外へと連れ出された。 だが、火元になった私の部屋は…もうどうにも助からないようで。 (楽しき、人生だった) この先竹田様に買われ一生を全うするかと思っていた。 だが、最後の最後に和孝をこうしてまた巡り会えて…誠に幸せだった。 (私が死んだら、誰か和孝の腕にあるあの腕飾りの糸を…切ってはくれぬだろうか) いつまでも私に縛られることなく、心から愛する女と…今生を共にしてほしい。 ……嗚呼、でも。 (最後に、名前を…呼びたかった) 「和孝」と 偽名ではなく、その目を…その顔をしかと見て、お呼びしたかった。 そして、そうして願わくば…… (〝伊都〟と…呼んで、ほ、しかっ………) 立ち込める煙で視界がぼやけ、頭に霞がかかってくる。 そうして、「嗚呼最期なのだ」と目を閉じる耳に微かに響いたような…その物音は 何故か……和孝の声が〝伊都〟と呼んでいるように 聞こえたのですーー

ともだちにシェアしよう!