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(はぁぁ…またかぁ……)
それからというもの、来るたび来るたび図書室には先輩と彼女。
テストの成績が良くなったらしく、それから放課後勉強を見てもらってるらしい。
(いや、別にいいんだけどさぁ)
側から見たら「どゆこと!?」ってなる組み合わせだけど、あの人たち運命同士だから別に何もおかしくないし。
けどさぁ……
「あ、村園くん。こんにちは」
「ん? 村園いたの?
なにやってんのそんなとこでーこっちこっち!」
「は、はぃぃこんにちはおふたりとも……」
(これ僕すんごいお邪魔じゃない?)
必然的に顔を合わすから話すようになったけど、緑薔薇の運命の人は案外いい先輩だった。
彼女は将来両親が経営してる会社を継ぐために、どうしても行きたい大学があるらしい。
使っている化粧も香水も全部自分の会社のもの。PRするために毎日してるんだとか。
(人は外見によらずとは正にこのことってね)
裏表がなく気さくで明るい性格、彼女いるだけでガラリと空気が変わる。
ついついつられてこちらも笑ってしまうから、もう本当に……
「今日も本?勉強しなくて大丈夫なの?」
「僕何気にちゃんとやってますからね〜先輩と違って」
「なっ!私だって最近はちゃんとしてるし!もう本当後悔しかないんだって…もっと前から頑張っときゃよかった。
村園学年交換しよ〜よ〜〜」
「はぁ!? そんなん無理ですよ!僕応援しますから」
「クスクスッ。
俺も教えるし、後もうちょっとだけ頑張ろうか」
「ぬぁぁ村園も三船も優しいかよ〜泣くわ私。本当にありがとう!」
三船先輩は、彼女が来るようになってから段々と笑顔が増えてきた。
きっと僕と一緒で無意識に自然とそういう表情になってるんだと思うけど、声も明るくなってきて楽しそうで……
「よし、じゃあ次はこのページまで解いて」
再び勉強がスタートし、またいつものシィ…ンとした静かな図書室の空間へと戻った。
ポツリポツリと問題を解説する優しい三船先輩の声。
一生懸命聞いて頭に入れる、真剣な顔の先輩。
それを、席ひとつ空けて読書しながら見守る……僕。
(ぁ、まただ)
前々からあった胸のモヤモヤが、最近一段と大きくなった気がする。
本の内容なんて最近は全然頭に入ってこない…ページとかいつから進んでないっけ?
苦しくて、胸がギュッとなって、切なくて。
これは……
ボソッ
「嗚呼、駄目だよ」
ーー多分僕は、〝これ〟に気づいたら 駄目だ。
深呼吸しよう、いつものように。
そうしてまたいつもの僕に戻って、先輩方を茶化して息抜きさせてあげるんだ。
そうやって、少しでもふたりに協力を……
そう、僕は村園。
なんでもない村人Aで、この学園の物語では紹介すらされないただのモブ。
(大丈夫、大丈夫)
こんな気持ちなんかすぐに何処かへ行ってしまうさ。
ーー本当に?
「っ、」
ねぇ、あの席は僕のだったのにどうして先輩が座ってるの?
僕のほうがずっと前から三船先輩を知ってたのに。
なのに、どうしてーー
(やめろ)
気づかれないようグッと胸を押さえながら、目の前の文字をただただ見つめた。
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