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(へぇ……屋上って開いてたんだな)
椎名雪の昼は、食堂のときもあれば教室のときもあり、そして時々こうして場所を変えることもある。
気分屋なのか、それとも意図して変えてるのかは分からない。
基本的に無表情で静かな性格。
誰かと話していても、あまり笑うことはない。
だが、不思議系と思いきや案外しっかり自分を持っていて……なんというか、口は動かないけど心で喋ってる感じの奴だ。
(多分、その口に出さない部分で俺は弾かれてんだよな)
一体なにを思ってんだ……?
あぁほんと、テレパシーとか使えたらすぐ解決すんのに。
扉をそっと開きながら、俺も屋上へ出る。
待ち合わせをしてたのか、既に先客がいて話し声が聞こえていて。
壁に手を当てながら、隠れるよう影へ腰を落とした。
「えぇ!雪まだ進展無いのっ!?」
あれは……確か赤薔薇だった吉井朱香。
驚いたように問われ、椎名は無表情のままコクリと頷いている。
その様子に吉井の隣で苦笑してるのは、赤薔薇の運命の人だった一条陽太。
(成る程、こうやって情報交換? 相談? してたのか)
見つかるのがまずい分、人気のない場所で集まってるのか。
クラスは違うのに普通に会話してるのを見ると、恐らく前々からの知り合い。
(ということは、椎名の隣にいる奴も薔薇ってことか……)
あいつは椎名と同じクラスで一緒にいることが多い。
運命の人はみんな名前を明かしてるし、吉井たちが隠さず話してるのを見ると多分何色かの薔薇だ。
まぁ他人の運命に口突っ込むことはしないから、そのままにしておくが……
(って、おいおい先ずは自分のことだろ)
「僕だったらすぐOKしちゃうのに…雪すごい、よく我慢できてるね」
「まぁ俺らは幼馴染みってのもあったしな、そこじゃないか?」
「んー…でも僕はこれから知っていけばいいかなって考えちゃうなぁ….珊瑚はどう思う?」
「俺? そうだなぁ……まぁ時間はあんだしそれぞれのペースで行きゃいいんじゃないかなって。
雪は雪でなにか譲れないもんがあるみたいだし、それは無くしたら絶対駄目だと思うからなんも言えないかなぁ」
「そうだね…うん、そういうのは無くしたら駄目だね、そうだ」
「なら、俺らは変わらず見守るしかないな」
「ん。みんな、心配ありがと」
「いや全然!いいんだけど……」
ポツリと、吉井の声がワントーン下がる。
「まだ、〝怖い〟の?」
「……ん、〝怖い〟」
(…………ぁ)
無表情の顔が少し、泣きそうに歪んだ。
だが、直ぐまたいつもの顔へ戻る。
「そっか……なら、引き続き様子見だねっ」
そんな椎名を元気づけるように、3人が笑った。
(怖い…怖い、か………)
なにか重要なことを聞けた気がして、普通に会話し始めた奴らの元を去る。
椎名雪は、俺のことを〝怖い〟と思っている。
ーーそれはなにに対して……?
恐らく、そこを理解すれば俺と椎名の溝は埋まるはずだ。
俺にはなにかが〝無い〟。
〝無い〟から〝怖い〟のか?
分からないことだらけ。
だが、少しは明確になってきた。
(後…もう少し……もう少しだ……)
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