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「俺も恋愛対象は女だしさ、お前もだろ? だからこれは別になんでもないじゃん」 なんてことないように笑いながら、プツリプツリとボタンを外していく。 「寧ろ男でよかった、的な?」 的な? なんで。 まったく理解できない。 僕がおかしいんだろうか。 男同士でこんなことするのは遊びだって、割り切れない自分が おかしいのだろうか。 だからこういう状況を変に感じてる? 普通はもっと…笑って冗談で 終わらせられる……? (ぁ、やばぃ) 過去のあいつと重なって、急に息ができなくなり目の前がぐらつきだす。 抵抗しないともっと苦しくなる。知ってる。 でも、声が 体が、まったく動いてくれな……… 「……ひ、ぐ、っぁあぁ!」 喉から変な音がする中、自分でも驚くようなひしゃげた声が出た。 なんだろう、これ。 ーーあぁそうか、悔しいんだ。 悔しいんだ、敵わないのが。 抵抗できないのが。 僕を、ちゃんと見てくれないのが。 きっと僕はおかしくない。 ずれてるのかもしれないけど でも、それでも 「ぃや、だ……っ!」 嫌なんだ、心が無視されるのが。 大事なのは男とか女とか、そういうのじゃない。 その人が持ってる想いなんじゃ…ないの……? それが1番大切で、それが通じ合った人と一緒になるんじゃ、ないの? それを通じ合わせることに、男も女も関係ないんじゃ…ないの……? (あぁ、僕は) 性別なんて、そんなちっぽけなもの簡単に凌駕してしまうような そんな ーー燃え盛るような灼熱の恋が、してみたかったんだ。 「………ぃ」 誰かの1番に、なってみたい。 「なな……ぃ」 できれば、あなたの。 こんな気持ち悪い手じゃない、あったかくて優しい手。 あれに触れて 「っ、なない!」 あなただけの1番に、選ばれて みたい。 「は、七井? あいつがどうした……って、 小里 この指輪ーー」 「彩ちゃん!!」 ガチャン!と激しい音がした玄関と、バタバタ走ってくるいくつかの足音。 「彩ちゃん!あや……お、まえ…!!」 「七井落ち着け!」 「先生、先生早く!」 騒がしくなる室内。 乗っていた奴を、誰かがベッドから引きづり下ろしてくれた。 肌けたシャツを掴み、慌てて起き上がる。 バクバク震える心臓がうるさくて、上手く呼吸できずに涙が出てきて。 「大丈夫、大丈夫だから」 ふわりと、なにかに抱きしめられた。 「少しずつ吸いましょう。 私のリズムに合わせてください」 別のなにかが、今度は背中をポンポン撫でてくれて。 「は…カハッ、は…っ、は……」 「そう、その調子です。 七井くん、もう少し落ち着いたら保健室へ」 「はい」 ギュッと更に力を込めて抱いてくれる温度は、ただ あたたかくて。 「〜〜っ、ぅ、えぇ」 もっと苦しくなるのに、嗚咽が漏れて仕方がなかった。 *** 「外にいますので」と、カーテンを閉めてくれた六花先生。 シーン…と静まり返った空間で、保健室のベッドから天井の明かりを見つめる。 助けてくれたのは七井たちのグループと先生方だった。 今日プリントを届けにこようとしてくれたのは本当。 担任と保険医も一緒に様子を見にいきたいと話をしてて、それをたまたま別の奴が聞いて今回のことが起こったのらしい。 「呼びかけても全然気配なくて、ドア前で『どうする?』って言ってて。けどなんか変な感じがして、そのまま先生に鍵開けてもらって…… ごめん、本当に。もっと早く判断すれば…というか、もっと誰も聞いてない場所で話をしとけば……」 「…………」 ポツリポツリと話す七井に、目を移す。 それはそうかもだけど。 でも、どのみち僕にはこういうことが起きたんだと思う。 遅かれ早かれ、多分。 だから、問題はそこじゃなくて。 「……ぁの、」 「? なに」 「指輪、見たよね?」 「っ、………見た」 ーーそう、こっち。 まだ重い腕を動かし、首からチェーンを外す。 「返す」 「………え」 「僕のじゃないから。 この後、校長先生のところ 返しにいくね」 ごめん、ずっと持ってて。 しかも最悪なばれ方をした。 脱がされて、そこで見つかるなんてロマンもクソもない。 入学から今まで。 七井の1年半は、僕が無駄にさせた。 (最悪じゃん、ほんと) 謝っても謝りきれない。でも 「本当に、すいません…でしt」 「なんで謝るの?」 「……? ぁ」 パッと取られた指輪。 そこから素早くチェーンを抜かれ、左手を握られる。 そのまま 「…………ぇ、待っ」 「彩ちゃん、ちゃんと話をしよっか」 薬指に通され、両手で包み込むよう握られた。

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