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(あの日のことは、よく覚えているな……) 『あ……っ!』 『お前、は……!?』 Ωは、なんと2人現れた。 馬車はすぐ迎えに来て、途中でもうひとり男の子を拾いそのまま走り続けて。 通された城の大広間に国王陛下が入ってきた瞬間、隣の子と陛下が同時に声を上げた。 (? なんだろう?) 誰もわからない中、驚いたように見つめ合うふたり。 やがて、陛下がポツリと口を開いた。 『彼は……私の、〝運命の番〟だ』 『っ、な……!?』 〝運命の番〟 元々αとΩはひとつの番になってるらしいが、番同士が出会える確率は遥かに低い。 その為運命でなくとも番(つが)うのが当たり前で、〝運命の番〟はおとぎ話に出てくる幻想だと言われてきた。 (なのに…陛下と、隣の子が……?) 凄い。 本当に、奇跡だ。 会えて嬉しいのかどんどん息が上がっていくその子を、近づいた陛下が支える。 その様子がとても甘く幸せそうで、見てるこっちまで顔が赤くなってしまいそうなーー 『お待ち下さい、陛下!』 大きな声が、ひとりの老人から発せられた。 『〝運命の番〟などまやかしです。お気を確かに』 『なにを言ってるパドル? 私の本能が語っているのだ。それにこの者も同じ想いを感じている。 お前はβだから分からんだろうが、これは運命以外の何者でもない』 『β以前に、その様な目に見えないもの私は信じません。 ずっと待ち望んでいたΩではありませんか! それなのに、何故出来の悪そうな方を選ぶのです?』 『……は?』 ピシリと、嫌な音を立てて空気が凍った。 だが、パドルと呼ばれた人はなんでもないように続ける。 『身なりを見てください。 今抱いている者は薄汚れておいでです。恐らく村の出身で身分も高くない。それに比べ、こちらの者はある程度しっかりした服を着ています。顔も整っており肌の色も健康的だ。 陛下の番には、こちらのΩをお選びください』 (……ぇ) この人は、何を言ってるの……? 驚きすぎて声が出ないまま、突然指刺されビクつく。 ゆっくりこちらを見る陛下の視線も怖くて、思わず下を向いてしまって。 『……パドル。お前は幼少の頃からずっと私の教育係を担ってきた。その分、私やこの国を大切に思う気持ちは分かる。 だが、気持ちを踏みにじるのは話が別だ。 私の番はこの者ではない、今抱いている者だ。身分も顔つきも関係ない。 それを否定するとは、貴様侮辱しているのか?』 『いいえ滅相もございません! ただ私は、少しでも陛下の健やかな世継ぎをと思い! ……ならば、折角Ωが2人も現れたのです。どちらも陛下の番とされるのはいかがでしょうか? 産まれてきた子の出来の良い方を世継ぎとしましょう』 『ーーっ、だから貴様は!』 『おやめ下さい!』『陛下とパドル様を離せ!』 慌てて兵士たちが止めに入り、陛下は腕に抱いたまま乱暴に部屋を出て行かれた。 去り際にその子と目があったけど、ポロポロ涙を流す姿は本当に悲しそうで…… (僕は、あの幸せを奪いたくはないな) Ω同士だからこそ分かる、最愛の人に出会えた嬉しさ。 それを運命でもない僕が邪魔するなんてあり得ない。 そんなのは絶対に嫌だ。 『……僕、このまま帰りm』 『何を言っている?』 『え? ぁ、痛っ』 兵を退け歩いて来たパドル様に、両肩を掴まれる。 『お前は、このまま私と来なさい。 私がお前を一流のΩに教育する。そして陛下を説得し、いずれは未来を担う番へ…そうしなければ我らの国が……! あぁ心配するな、私は腕がいい。折角訪れたこの奇跡、私が確かなものにしてみせよう……ははっ、はははは!』 ゾワリと全身の毛が湧き立つような笑い顔。 そのまま引きづられるように連れられ、僕専用の部屋が設けられて城での生活が始まってーー 「リシェ、ペンが止まっているよ」 「ぁ、すみませんっ」 「はぁぁ全く……お前は未来の王妃だ。 もっと真剣に臨みなさい」 此処に来て早2週間。 勉強やマナー漬けの日々を送ってる。 何の変哲もない街で育った僕にとって、城の教師が付くのは有難いこと。 けれど…… (僕は、何のためにいるんだろう) パドル様は僕を王妃にする為、時間が空けば陛下の元へ行き話をしているらしい。 でも、僕にはそんなつもりはない。 あの時見た幸せそうなふたりの邪魔を、したくない。 だが、それを血眼になっているパドル様に言うのが、本当に怖くて…… (どう、すればいいの?) 機嫌を損ねれば相応の罰が待っている。 だからいつも上品に笑い粗相のないよう会話して、教えを忠実に守って。 そんなことを、一体いつまでしていればいいんだろう? 正確な解説を頭に入れながら 答えが出ないまま、今日も時間が過ぎていった。

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