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「王妃を、殺そうと思う」
「……ぇ」
それは、勉強の時間。
何の前触れ無くさらりと言われた。
「もう限界だ。私がこんなに足を運んでいるのに、陛下は一向に聞く耳を持たない。
私はこの国の為、陛下の為尽くしているというのに!」
「パド、ル……様?」
「長く議論を交わしようやく訪れた瞬間……なのに、何故陛下は誤った選択に気付かれないのだ!? より確実な世継ぎを産むのはリシェの方だ!
だが、何度言っても王妃ばかりに目を向け可愛がり……もう我慢の限界だ、このままでは国は終わりを迎えてしまう。 ーーリシェ」
「ひっ」
ガッ!と顎を掴まれ上へ向かされる。
「協力してくれるな?
お前は既に勉強もマナーも良い。王妃として他国へ行ってもこちらが恥をかくことはない。
それに、毎日侍女へ磨かせてる肌は真珠の如く美しい。容姿も整っているし、誰も受け入れてない純白の身体はきっと陛下もお気に召してくださる。
これこそが完璧なΩだ。お前は、私が育てあげたセグラドルの宝だ!!
貴重なΩを消すのは私としても大変惜しい。だが国の為なのだ。
ーーわかってくれるね? リシェ」
(この、人は…何を言ってるの……?)
わからない。
上手く理解出来なくて、頭が真っ白になる。
王妃を殺す? 国の為?
そんなことしたらセグラドルが終わってしまう。
陛下は僕など決して愛してはくださらない。
第一、僕には運命の番がーー
『リシェ』
(っ、アーヴィング…様……)
「…………は、ぃ」
「あぁ、やはりお前は素晴らしいΩだ!
王妃とは比べものにならない…完璧な……!
ははは、あはははっ!!」
ここで肯かなければ、恐らくパドル様はもっと暴走する。
誰も知らない水面下で王妃様を狙う計画を進めてしまう。
そんなのは駄目だ、絶対に。
だって、この国は僕の運命の番が嗅覚を失ってまで必死に守ってきたものだ。
それを滅亡させるなんて、許さない。
(僕が、どうにかしなければ)
パドル様に信用されてる僕が、なんとしてもこの計画を止めなければ。
アーヴィング様が守ってきたセグラドルを、僕も守らなければ。
ーーあぁ僕、番だと告げなくて良かった。
告げていたら、王妃様と共にアーヴィング様も危険な目に合わせようとしていたかもしれない。
そうならなくて、本当に良かった……
(僕が、やらなきゃ……!)
止めなければ、この人を。
狂ったように笑う姿を見つめながら、震える身体を叱咤し拳を握った。
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