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「はぁぁ……」
計画を聞かされて数日。
もう教えることは無いのか、勉強時間は計画を練る時間に変わった。
(どうすれば、止められるんだろう)
パドル様はとても賢い。
そんな人に、僕はどう立ち向かえばーー
「あれ?」
久しぶりに休憩時間を貰えてやって来た訓練場。
でも、アーヴィング様の姿は無い。
(王妃様のとこに行ってるのかな?)
顔見たかったんだけどな。
待ってたら戻られるかな?
「リシェ」
「っ、」
振り返ると、ひらひら手を振りこちらに歩いて来ていた。
「いたのか」
「はいっ、お久しぶりです」
「ん。元気そうだな」
「アーヴィング様もお変わりないですか?」
「あぁ」
「良かったです」
(……あれ?)
何でだろう、視線が合わない。
いつもなら笑って頭を撫でてくださるのに……
ヒヤリとして無意識に後ずさる。
それを無言の睨みで責められ、張り付けられたように動けなくなった。
「なぁ、リシェ。
君は俺に〝パドル様のもとで勉強している〟と言ったな」
「は、い」
「俺はそれを一般教養を身に付ける為だと思っていた。だが……
〝王妃の座を狙い勤勉に励んでいる〟というのは、本当か?」
「ーーっ!」
ヒュッと喉が鳴った。
「君は王妃様を引きずり落とす為、共にいるのか?
答えろ」
低く、冷たい声。
放たれる威圧が凄まじく、呼吸がままならない。
違う。
そんなつもりはない。
(……けど、もしそう答えてパドル様の耳に入ったら?)
僕は信用を失い計画から外されてしまう。
そうなれば、王妃様を守ることはできない。
それに、仮にここで全て伝えパドル様を捕まえても、証拠がなくて不起訴。
決定的な……言い逃れできない証拠を押さえ、賢い彼が逃げられないような状況を作らねばならない。
だからーー
「最近、パドル様の様子がおかしいと報告があった」
「!」
「君はこの頃ここへ来なかったな。
何か知らないか」
(言ったら、駄目だ)
言ってしまったら……もし、言ってしまったらーー
「否定も無いということは、全て肯定でいいんだな?」
「…………っ」
「……はぁぁ。わかった」
大きな溜め息に身体がビクつく。
「此処へは、もう来ないでくれるか」
「ぇ」
「目障りなんだ。訓練の邪魔だ」
「っ、ぁ」
「……俺は」
寂しそうな、悲しそうな声に顔を上げると、すぐ視線を逸らされた。
「君のことを、信じてたのに」
「ーーっ!」
もう、視線は合わない。
そのまま言葉も無く去っていく姿に、身体が引き裂かれそうな程痛くなる。
(運命の番に嫌われるって、こんな感じなんだ)
薬を飲んでるにも関わらず熱くなっていた身体。
それが冷え切り、寧ろ寒くて震えだす。
とうしよう、嫌われた。
もう目も合わせてくれない。
折角奇跡に近い確率で会えたのに、そんなことーー
呆然と見つめる視界が、涙でグニャリと歪む。
「アー、ヴィング……さまっ」
お願い、どうか…嫌わないで。
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