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あなたの世界で、僕は きっとどうしようもない存在だったでしょう。 思えば、初めてお会いした時から迷惑ばかりかけていましたね。 初めての発情に 訓練の合間付き合っていただいた会話に あてもなく歩き注意された散歩に…… 気付けば、いつだってあなたを困らせていました。 本当にごめんなさい。 あなたはかっこよくて、勇敢で、温かくて。 そんなあなたの運命の番というのが心から誇らしかった。 ……パドル様が怖いとか言ったらどうなるかわからないとか、全部ただの言い訳なんです。 こんな僕があなたの運命というのが恥ずかしくて、隣に並ぶ自信が無くて、告げられませんでした。 弱虫で本当に情けない。 けど、そんな僕にあなたはいつも優しく接してくれました。 ーーねぇ? もしかして僕がいつも下ばかり向いてたから、頭を撫でてくれたのですか? 「大丈夫」だと。「前を向け」と。 そんなことを思いながら、頭に手を乗せてましたか? あぁ、気付くのが遅いな。 あの日のパンも有り難かった。 温かくて優しい味がして、嬉し涙でちょっぴりしょっぱくなって、幸せで。 僕はいつも、あなたから貰ってばかりいたのですね。 それなのに、何も返せなくてごめんなさい。 この国は、これからより良い方へ進んでいく。 陛下と王妃様が導いてくださる。 セグラドルは、もう大丈夫。 だから、あなたももう無理に戦わなくていい。 これ以上何も失わなくていい。 あなたが進む道は、きっと幸せで溢れている。 番を見つけ、子どもを作って子育てをして…… 泣き叫ぶ赤子を抱きながら、あなたは悪戦苦闘するのだろうか? 成人してその手を離れていったとき、ひっそり泣いてしまうのだろうか? その時優しく寄り添ってくれる人に、必ず出会える。 ーー〝運命の番〟などは、関係ない。 そんなもの、所詮おとぎ話だ。 あなたが年老いて この世を満喫し目を閉じる瞬間まで、見守っていよう。 そして、もしまた出会えた時は そっと挨拶しにいってもいいですか? 覚えてなくていいから、また話しかけてもいいですか? そして、そして願わくば……どうか ーーまた、頭を撫でてくださいませんか? そんな未来が (僕にも…来るといいなぁ……)

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