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[本編]王妃視点 1

【僕らは、幸せになるために生まれてきたんだ】 その日、成人を前にして行われた検査は奇跡だった。 十数年現れなかった性が僕に宿っていて、検査後すぐに迎えの馬車が来て。 乗り込んだ先には既にもう1人男の子が乗っていて、この子もΩなんだと分かった。 緊張してしまって、本当はいろいろ話したかったけどお互い無言のまま城に着いてしまって。 大広間で国王陛下とお会いした、瞬間ーー 「あ……っ!」 「お前、は……!?」 まるで雷に打たれたかのような感覚。 世界から音が消えて、目の前の人と真っ直ぐ糸が絡まったようなーー 「彼は……私の、〝運命の番〟だ」 「ーーっ!」 (運命の、番) 陛下の言葉が、自分の中にストンと落ちてきた。 そうか、運命の番か。 だからこんな感覚がしたんだ。 おとぎ話の中だけだと思ってたのに、本当にいるものなんだ。 (しかも、僕…出会えて……っ、) なんだろう? 身体が段々熱くなってきて視界がぐらりと揺れる。 隣の子が支えようとしてくれたけど、それより先に大きな手が抱きかかえてくれた。 ふわりと包まれるのは、待ち焦がれていた香り。 グッと身体を寄せ、首元に顔を埋められる。 僕の匂いを嗅いでるのだろうか? 興奮している様子の陛下にジワリジワリと自分の熱も上がり、トロッと後孔が濡れる感覚がする。 (嘘、待っ、) こんなに人がいっぱいいるのに、そんなのはーー 「運命の番などまやかしです。お気を確かに」 (……ぇ?) 突然聞こえたそれに、ビクリと思考が止まった。 「なにを言ってるパドル? 私の本能が語っているのだ。それにこの者も同じ想いを感じている。 お前はβだから分からんだろうが、これは運命以外の何者でもない」 「β以前にその様な目に見えないもの、私は信じません。 ずっと待ち望んでいたΩではありませんか! それなのに、何故出来の悪そうな方を選ぶのです?」 出来が…悪い……? 何を言われてるのか分からず真っ白になる頭の中。 けど、パドルと呼ばれた人は何でもないように言葉を続ける。 「身なりを見てください。 今抱いている者は薄汚れておいでです。恐らく村の出身で身分も高くない。それに比べ、こちらの者はある程度しっかりした服を着ています。顔も整っており肌の色も健康的だ。 陛下の番には、こちらのΩをお選びください」 (…な、そん、なの……) 確かに、僕は村の出身だ。 小さい村だしそれなりに苦労もしてきた。 でも、そんなの比べられていいものじゃない。 それより、運命の番という事実の方が遥かに上のはず。 なのにーー (ぁ、やだ、そっち見ないで……) もう1人の子をゆっくり見る陛下の視線も怖くて、思わずキュッと服を引っ張る。 熱くてたまらなかった熱は一気に引いていき、代わりにカクカク震えだして。 ほろりと流れ出した涙はもう止まることはなく、ただ悲しさだけが胸に広がって…… 「っ、」 ーーすぐに、大きな手が涙を拭ってくれた。 「……パドル。お前は幼少の頃からずっと私の教育係を担ってきた。その分、私やこの国を大切に思う気持ちはよく分かる。 だが気持ちを踏みにじるのは話が別だ。 私の番はこの者ではない、今腕に抱いている者だ。身分も顔つきも関係ない。 それを否定するとは、貴様侮辱しているのか?」 「いいえ滅相もございません! ただ私は、少しでも陛下の健やかな世継ぎをと思い! ……ならば、折角Ωが2人も現れたのです。どちらも陛下の番とされるのはいかがでしょうか? 産まれてきた子の出来の良い方を世継ぎとしましょう」 「ーーっ、だから貴様は!」 「おやめ下さい!」「陛下とパドル様を離せ!」 慌てて兵士たちが止めに入ってくれて、陛下は僕を抱いたまま乱暴に部屋を出ていく。 「ぁ……」 去り際にあの子と目があったけど、とても驚いてるような複雑な顔をしていて。 (お願い。どうか、僕からこの人を取らないで) 僕には、この人だけなんです。 きっとこれから先何よりも大事になる存在で、もう既に離れたくないと思ってしまっていて。 だから、だからどうか…お願い……っ。 こんなことから、僕の運命は始まった。

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